artscapeレビュー

渡辺真弓『パラーディオの時代のヴェネツィア』

2010年02月15日号

発行所:中央公論美術出版

発行日:2009年12月25日

本書は、もっとも繁栄していた16世紀のヴェネチアに焦点をあて、リアルト橋、都市改装、パラーディオの活動(住宅ではなく、主に教会を手がけていた)、そしてサンソヴィーノやサンミケーリなど、ほかの建築家や水利技師について詳細に論じている。サンソヴィーノやパラディオが工事に失敗したり、雨漏りをして、損害賠償をしたというエピソードも興味深い。建築のデザインを分析しつつ、それが都市にフィードバックしていく。ゆえに、本書はヴェネチアの都市史でもある。そして16世紀はまさに都市景観にとって重要な完成期だったという。単に水の都というだけではなく、重層的な時間を刻む都市を形成したからこそ、ヴェネチアは素晴らしい景観を獲得した。筆者が2008年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館のコミッショナーをつとめていたとき、著者の渡辺さんが会場に訪れたことを思い出しながら読んでいたら、あとがきでそのときのことについて触れていた。実際、彼女の視線は過去の話だけではなく、サンティアゴ・カラトラヴァや安藤忠雄のプロジェクトなど、現代のヴェネチアの状況についても向けられている。なお、本書には付録として、パオロ・グァルドによるパラーディオ伝の翻訳もつく。

2010/01/31(日)(五十嵐太郎)

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