artscapeレビュー

中沢新一『アースダイバー』

2010年02月15日号

発行所:講談社

発行日:2005年5月30日

縄文海進期の地図を現在の東京に重ね合わせることによって見えてくる、新しい東京論。氷河期の後の縄文時代は、氷河が溶け、海面がかなり上がっていた。現在の東京の下町一帯は海で、山の手にも奥深くまで海が入り込み、フィヨルド上の地形となっていた。中沢新一は、その縄文の東京にダイビングし、大地に耳を傾ける。中沢によれば、縄文時代の洪積層と沖積層の境界を書き込んだ地図に、神社や古墳など霊的なものが感じられる場所をプロットしていくと、決まってそれらは両者の境界、つまりフィヨルドの岬の部分に位置しているのだという。そしてそこだけ時間の流れが遅れているのだと。このアース・ダイビング・マップを持って、中沢は東京を歩き回り、エロスとタナトスの香りに満ちた文体で、都市の姿を描き直す。さて、本書自体は5年前に出版された本であり、すでによく知られている本であろう。ところで、建築分野で同じような視点で都市を捉えようとしている二組挙げておきたい。まず皆川典久を会長とし、石川初を副会長とする東京スリバチ学会(2004-)。中沢が突き出した形の岬に注目するのに対し、スリバチ学会はすり鉢状にへこんで囲まれた場所に注目して都市を見る。また宮本佳明、中谷礼仁、清水重敦らは、『10+1』37号(2004)で「先行デザイン宣言」を行なった。宮本は過去のかたちに影響を受けた風景のほころびを「環境ノイズ」と呼び、そのエレメントを集める。中谷は都市に潜在する過去の形質を「先行形態」と呼び、過去と現在との関係を検討する歴史工学という学問分野を立ち上げた。いずれも現在に過去が大きく食い込んでいることに注目して都市を見る視点であり、2004年から2005年頃、新しいタイプの都市論が同時期に現われてきたことは興味深い。

2010/01/20(水)(松田達)

2010年02月15日号の
artscapeレビュー