artscapeレビュー

大西伸明 展「Chain」

2010年02月15日号

会期:2009/12/19~2010/01/23

ギャラリーノマル[大阪府]

大西伸明の新作展。動物や植物、量産される製品を樹脂で型取った作品や、トレースや版画などの手法による連続、反復という要素を通して、モノのとらえ方をさまざまな意味で揺さぶる作品を発表してきた。そのテーマは一貫しているのだが、今展では映像や音による表現という新たな試みが加わっていた。会場に設置された5台のモニタ画面では、偽物のバナナの中に混じった本物のバナナだけが時間の経過とともに変化していく映像が繰り返し流れていた。氷が溶けていくという別のパターンもあったのだが、これらの映像作品にはあまり興味を持てなかった。私自身が想像しなくても、そこで起こっている時間の経過、物質の変化の過程が「自動的」に見せられるという印象が強かったからかもしれない。だが一方で、音の作品は面白い。壁面に設置されたスピーカーから鳥がチュピチュピとさえずる音が延々と聞こえてくる。音を聞いた瞬間から鳥のイメージは浮かぶのだが、実際にはその場にはもちろん鳥はいない。そこで、壁から聞こえてくる鳴き声の反復の空しさを知るのだ。ひとつの存在へ思いを巡らせるセンスはさすがだなあ、と感動したのだが、でも、個人的には本物そっくりの立体作品がやっぱり好きだ。それらにはいつも、想像力をフル回転させてじっくりと見つめなければ味わえない、はかなさが潜んでいるからだ。それは“微妙”という虚実すれすれの存在感であり、大西作品の素敵なところなのだ。

2010/01/15(金)(酒井千穂)

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