artscapeレビュー

三浦基『おもしろければOKか?』

2010年03月01日号

発行所:五柳書院

発行日:2010年1月

京都を拠点に活動する三浦基(劇団「地点」主宰)の演劇論。表題の問いは、物語の奴隷状態から演劇を解放し、空間芸術・時間芸術としてとらえようとする三浦の思いが反映されている。議論は必然的に戯曲に演出がどう対峙するかに集中する。けっしてわかりやすい本ではない。しかし、演出家というものはここまで演劇を考えているものなのかと、読んでいて〈演劇なるもの〉の深淵を不意に覗き込ませられた気持ちになる。この体験はなかなか得難い。三浦本人も難渋するさまを隠さない。「どうだろうか。私だって意味がわからない。このでたらめさには、自分でも嫌気がさすが、しかし、これだけのことを思ってしまったことは本当であり……」。この正直さはチャーミングだ。演出家は演劇がわかって演出しているわけではない。手探りで自分の実感を頼りに闇を進む。その振る舞いがトレースされている。「私は今、きっと無理を言い出している。本当に自由な『時間』を求めているのだから」。三浦の望みは演劇がどんな主体性も関与しない「時間」そのものとなること。それを語る寄り道にムンクが不意に現われる。唐突さに笑い、引き込まれる。現代演劇論としてのみならず読み物としても魅力的な本である。

2010/02/28(日)(木村覚)

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