artscapeレビュー

高橋宗正「スカイフィッシュ」

2010年04月15日号

会期:2010/03/19~2010/04/18

AKAAKA[東京都]

高橋宗正と最初に会ったのは2001年頃、まだ彼は20歳そこそこの写真学校の学生だったはずだ。その頃からセンスのよさはずば抜けていたのだが、逆に器用にまとまってしまいそうな予感もあった。その後、彼は中島弘至とSABAというユニットを組んで、2003年の「写真新世紀」で優秀賞を受賞する。だが、それからしばらくは模索の時期が続いていたようだ。今回、赤々舎から最初の写真集『スカイフィッシュ』が刊行され、同名の展覧会も開催された。しばらくぶりで彼の作品をまとめて見ることができたのだが、明らかに一皮むけて、成長の跡が刻みつけられていた。昨年やはり赤々舎から写真集を出した佐伯慎亮もそうなのだが、公募展などで受賞後、きちんと自分の世界を形にすることができた写真家たちを見ると、嬉しいだけでなくほっとさせられる。そのままどこかに消えてしまう場合も多いからだ。
今回のシリーズには、特にテーマらしきものはない。折りに触れて撮影した写真の集積だが、彼が出会った小さな奇跡のような瞬間が的確に捉えられ、みずみずしく、開放的な気分のあふれる作品に仕上がっている。つねに何かに驚きの目を見張っているような少年らしさが、消えることなく残っているのが彼の眼差しの特徴で、鉱物と液体のあいだくらいの透明感のあるイメージに特に偏愛があるようだ。最初の写真が氷の上に一歩踏み出そうとしている遠景の人物、最後の写真が水の上に立つ彼自身を思わせる若者の後ろ姿──このあたりのまとまりのつけ方もなかなかうまい。「空飛ぶ幻の魚」(スカイフィッシュ)のように世界を軽やかに滑空していく気持ちのよさを保ちつつ、さらに暗い水底の深みまでも視線を伸ばしていってほしいものだ。

2010/03/24(水)(飯沢耕太郎)

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