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内田青蔵『「間取り」で楽しむ住宅読本』

2010年04月15日号

発行所:光文社

発行日:2005年1月

建築史家が、間取りを切り口として近現代の住宅史をたどる。興味深いのは、玄関、居間(この言葉が、「リビング」の訳語として初めて訳されたのは、大正時代の雑誌だった)、寝室、子供部屋、台所、便所など、住宅を構成する基本的な部位ごとに、その変遷を分析していること。言うまでもなく、それは近代社会において、いかに家族の概念が形成されたかを検証することにもつながる。われわれが当たり前だと思っている住宅=家族の姿は、せいぜい100年以内につくられたものであり、すでに大きく変容してしまった。例えば、大正時代に接客中心の客間から家族中心の居間への転換が起きたが、20世紀の半ばにテレビが侵入し、いまや居間には誰もいなくなっている。こうした歴史的なパースペクティブのなかで、山本理顕や難波和彦の住宅などが位置づけられているのも興味深い。

2010/03/31(水)(五十嵐太郎)

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