artscapeレビュー

原広司『YET』

2010年04月15日号

発行所:TOTO出版

発行日:2009年12月25日

原広司による未完の作品40点の作品集。フルカラーで日英スペイン語の三カ国語併記。スペイン語が加わっているのは珍しい。近年の南米でのさまざまな活動があるからであろう。巻末にはBUILTとYETの対比年表が並んでおり、「YET」という言葉から、実現への凄まじい気迫を感じる。有孔体の建築から、 シリーズ、地球外建築、離散型都市と、壮大なプロジェクトが続く。ところで、作品と同じく濃密なのが、本書全体に散りばめられた、端的な言い切りの形のいくつもの格言である。「はじめに、閉じた空間があった」「住居に都市を埋蔵する」など、よく知られたものを含め、原の40年以上の建築的思考が凝縮された文言の数々である。原の文章は難解で知られるが、数学的な記述の難しさを除けば、論旨はわかりやすい。逆に、格言は端的な一言であるが、説明がないからこそ難解で、考えさせる重みを持つ。原の建築にはそのような難しさと分かりやすさが同居しているかのようだ。原の難解なテキストに躊躇した人も、本書の格言の束によって原の思考をたどることができるだろう。

2010/03/12(金)(松田達)

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