artscapeレビュー

MOTアニュアル2010「装飾」

2010年05月15日号

会期:2010/02/06~2010/04/11

東京都現代美術館[東京都]

多様な「装飾」表現のあり方を通して、「装飾」の物質性のみならず、精神性の象徴や言語的、身体的な表現としての特性に注目する本展。出品作家の作品は、このテーマと直接には結びつかないもののほうが多いのだが、「装飾」という観点でそれぞれの表現にアプローチする試み自体が興味深い。床にインスタレーションされた山本基の塩の《迷宮》、薄い木材の作品全体が緻密に彫られた森淳一の彫刻、繁茂する植物のような小川敦生の石鹸の作品など、繊細でありながらダイナミックに連続や増殖のイメージを拡げる作品。時間、空間、記憶のイメージ、それらの境界に思いを巡らせる松本尚、水田寛、横内賢太郎の平面作品も美しかった。なかでも新鮮な感動を覚えたのは、塩保朋子の高さ6メートルを超える切り絵の作品。スケールの大きさの迫力はあれど白い紙をひたすら切り抜くという手法の冷静な印象のせいか、一見その空間は静謐に感じられる。しかし無数に切り抜かれた紙の隙間を透過する光が騒々しいほどの影の表情をつくり、空間を隔てるまさに紙一重のすれすれの際を浮かび上がらせて美しい。どの作品もじっくりと見るほどに境界が揺らぐ不思議に魅了される見応えの展覧会。

2010/03/27(土)(酒井千穂)

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