artscapeレビュー

青年団『革命日記』

2010年06月01日号

会期:2010/05/02~2010/05/16

こまばアゴラ劇場[東京都]

革命の理念が現実的な人間関係の交錯に揺さぶられる。アジトのマンションに集合した活動家たち。近々実行予定のテロ計画を確認する最中に、近所の主婦たちや事情をよく知らない協力者などが現われ、会議はなかなか思うように進まない。グループ間の人間(男女)関係もいさかいの種となる。こらえきれず若い女は絶叫し激怒した。そのハイライトの最中、なによりも驚かされたのは女が観客に背中を向けていたことだ。絶叫とともにみるみる赤くなる首や顔の輪郭あたりの白い肌。しかし、どんな表情をしているのかは観客に見えない。いや、正座した後ろ向きの姿全体がこの瞬間、女の顔になっていた、というべきなのかもしれない。目鼻立ちははっきりとしていないのだけれどただ行き場のない怒りだけは充満している顔としての背中。ただし、こうした大きな爆発のみならず、そこここで頻繁に起こる小さな軋轢も見所だった。いまさらいうまでもないことだろうけれど、平田オリザの力を見る者が感じるのは、なによりも人間関係の微細なバランスの変化を堪能しているときだろう。15人の役者が演じる役柄はそれぞれ社会的な役割を反映しており(活動家たちのほかに教員、商社マンなども登場する)、その諸々の対話の連なりは、不断に、各役割が接触した場合どんな出来事が起こりうるのかを丁寧に示し続けてゆく。複数の役割が一人の内で重なり合ってもいる(母で妻で活動家の女など)。そうした諸関係が、ぎくしゃくしたり、もつれたり、飛び火したり、停滞したり……。小さな空間で起こる接触の出来事たち、それらが不意に社会全体を表わしているようにも見えてくる。劇場を後にしてもなおその余韻は残り、しばらくバランスの変化するあれこれの瞬間を思い出し、反芻してしまった。

2010/05/11(火)(木村覚)

2010年06月01日号の
artscapeレビュー