2017年10月15日号
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artscapeレビュー

佐原宏臣「何らかの煙の影響」

2010年07月15日号

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会期:2010/05/31~2010/06/12

表参道画廊[東京都]

この展覧会も「東京写真月間」の関連企画で、倉石信乃のプロデュースによって開催された。佐原宏臣は1990年代半ばに、同じく東京造形大学の学生だった森本美絵と『回転』という写真同人誌を刊行していた。そのうち何冊かは家を捜せばどこかにあるはずで、その端正な写真のたたずまいが記憶に残っている。それから15年あまり、編集アシスタントや卒業アルバム制作会社に勤めながら、写真を撮り続けていた。この「何らかの煙の影響」のように、独特の角度から生の断片を再組織する、彼らしいスタイルを確立しつつあるように思える。
「何らかの煙の影響」は2003~09年の間に亡くなった7人の親族の葬儀の場面を扱ったシリーズ。冠婚葬祭の行事を撮影した「私写真」的な作品はそれこそ山のようにあるが、佐原のアプローチはそれらとは微妙に違っている。他の写真家たちのように家族や親戚と自分との関係に焦点を結ぶのではなく、儀式の中に無意識的にあらわれてくる他者の表情や身振りの方に神経を研ぎ澄ましている様子が見て取れるのだ。倉石信乃が展示に寄せた文章で指摘しているように、それは佐原が「自身も葬儀のメンバーでありながら、儀式の余白において出来事を観察する」という絶妙の位置取りをしているためだろう。そのポジションをキープし続けることだけに神経を集中しているといってもよい。その不断の緊張の維持によって、ゆるいようで張りつめた、不思議なテンションの高さが写真の画面に生じている。同時に上映されていた映像作品「sakichi」(カラー、35分)にも、同じように観客をとらえて離さない緊張感が持続していた。

2010/06/02(水)(飯沢耕太郎)

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