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artscapeレビュー

荒木経惟「センチメンタルな旅 春の旅」

2010年07月15日号

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会期:2010/06/11~2010/07/18

RAT HOLE GALLERY[東京都]

「センチメンタルな旅 春の旅」というタイトルは、いうまでもなく1991年の写真集『センチメンタルな旅 冬の旅』(新潮社)を踏まえている。愛妻、陽子の死の前後の「写真日記」を中心とした前作に対して、今回は愛猫のチロの最後の日々が描き出されていく。
チロは1989年に4ケ月で荒木家にもらわれてきて、先頃、22歳という長寿を全うして亡くなった。人間の年齢に換算すると105歳という大往生だが、会場に展示されている80枚の写真を辿っていくと、この猫が荒木といかに強い絆で結びついていたのかが伝わってくる。『センチメンタルな旅 冬の旅』を見た時も強く感じたのだが、猫という動物はどこか霊的な兆しを帯びているのではないだろうか。その一挙手一頭足、しなやかで、しかもエロティックですらあるたたずまいが、現実離れした不可思議な気配を漂わせているのだ。今回の連作では、チロがテーブルからベッドへふわりと飛び移る動作をとらえた写真に、魂の震え、揺らぎのようなものを感じた。
そのチロが、いよいよ病み衰えて死の床に横たわる姿に、荒木は何枚も何枚も続けてシャッターを切っている。チロの目が少しずつ潤み、その光が失われ、静かに閉じられていく一連のカットは、これまでも「死者」を撮り続けてきた荒木にしか為しえない、渾身の「魂呼ばい」の儀式といえるのではないだろうか。それに応えるように、最後の一枚の写真ではチロがふたたびバルコニーに姿をあらわすのだ。なお、RAT HOLE GALLERYから900部限定で同名の写真集(デザイン・綿谷修/白谷敏夫)が刊行されている。こちらも素晴らしい出来栄えだ。

2010/06/15(火)(飯沢耕太郎)

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