artscapeレビュー

彼女が消えた浜辺

2010年08月01日号

会期:2010/07/07

京橋テアトル試写室[東京都]

2009年制作のイラン映画の試写会。アスガー・ファルハディ監督作品。カスピ海沿岸のリゾート地で繰り広げられるミステリーで、人間の心理の奥深くを丁寧に浮き彫りにする傑作である。脚本も役者の演技も撮影技術も音楽も、つまり映画のどの側面を見ても、文句のつけようがないほど、すばらしい。善意から生んだ嘘がしだいに自分の首を絞めていき、疑心暗鬼と謎が深まっていく展開は、まるで良質の演劇を見ているようで、最初から最後まで画面から意識が離れることがない。私たちがイランの人びとの暮らしぶりを知る機会は決して多くはないが、中産階級の富の象徴として村上隆によってデザインされたルイ・ヴィトンのバッグ(モノグラム・マルチカラー)が登場しているように、ライフスタイルとしてはほとんど大差ないという事実を垣間見ることができるのも、見どころのひとつ。9月1日より順次ロードショー。

2010/07/07(水)(福住廉)

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