artscapeレビュー

ウィリアム・エグルストン「21th Century」

2010年08月15日号

会期:2010/07/02~2010/08/04

白石コンテンポラリーアート[東京都]

原美術館に続いて、銭湯を改装したユニークな会場で知られる谷中の白石コンテンポラリーアートでも個展を開催したウィリアム・エグルストン。『美術手帖』(2010年5月号)でも特集が組まれ、時ならぬブームが来ているようだ。それはこの写真家の現実世界へのアプローチの微妙な角度が、いまの空気感にぴったりしているからではないだろうか。過度に感情的ではなく、かといって突き放したクールな描写でもない。居心地がよいようで、実はかなり不安定で怖い部分もある。その絶妙なバランス感覚は、今回の近作展でも充分に発揮されていた。作品を見ながら気づいたのは、かつてのような主題となる被写体が画面の中心におかれているのではなく、より希薄に分散する傾向が強まっていること。壁、窓、地面などが大きな割合を占めていて、何を狙ったのか判然としない写真がけっこう多い。だがそれが逆に写真につきまとう「ノスタルジア」を中和し、リアルな皮膚感覚を呼びさますことにつながっている。その徹底した事物の表層へのこだわりは、おそらく日本の若い写真家たちにも強い影響を及ぼしていくのではないだろうか。とはいえ、エグルストンはひとりいればいいわけで、むしろ別種の視覚的システムの構築をめざしていくべきだろう。

2010/07/13(火)(飯沢耕太郎)

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