artscapeレビュー

長島有里枝「SWISS+」

2010年08月15日号

会期:2010/07/02~2010/08/04

白石コンテンポラリーアート[東京都]

同じ白石コンテンポラリーアートの2F会場では、長島有里枝の新作展が開催されていた。「2007年に滞在したスイスのVillage Nomadeで撮影した花の写真とインスタレーションによる小さな展覧会」である。「インスタレーション」というのは、銀紙を壁に貼付けて「紙製の鏡」を作り出したもので、そこに観客の顔がぼんやりと映り、横に貼られたプリントと共鳴して面白い効果をあげていた。ほかにもゲルハルト・リヒターの写真が掲載された展覧会カタログに花をあしらった「リヒターの少女と野生の花」、祖母が遺した薔薇の写真をモチーフにした「祖母の花の写真とコンセントのインスタレーション」といった作品もあり、単純なスナップというよりも視覚的な体験の再構築という側面が強まってきている。そのことを、どのように評価していけばいいのかは、もう少し様子を見ないと分からないが、以前のストレートな長島の写真のスタイルとはかなり異質な印象を受けるのはたしかだ。『群像』に連載した作品をまとめた短編集『背中の記憶』(講談社、2009)を刊行するなど、仕事の幅が広がりつつある。今後は写真とテキストを重ね合わせるような試みも出てくるのではないだろうか。会場で先行販売されていた写真集『SWISS』(赤々舎)でも、滞在中の日記と写真とがコラボレーションされていた。同世代の蜷川実花などと比較すると、決して派手な動きではないが、着実に写真作家としての歩みを進めているということだろう。

2010/07/13(火)(飯沢耕太郎)

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