artscapeレビュー

スウィンギン・ロンドン 50’-60’

2010年09月01日号

会期:2010/07/10~2010/09/12

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

50年代から60年代にかけてのイギリスで花開いた都市文化を検証する展覧会。べスパ、ミニスカート、トランジスタラジオなど、新しいファッションや工業製品を若者たちがこぞって消費する文化が定着したのがこの時代だが、展覧会の全体はほとんど商品の陳列に終始しており、消費文化を支えた若者たちの欲望の次元を掘り出すまでには至っていないようだった。古びたモノの数々は、当時の若者たちのノスタルジーを誘うことはあるのかもしれないが、それらが彼らの心理にどのように働きかけ、消費行動に導き、結果としてどのようなライフスタイルを生み出したのか、展示にはほとんど反映されていなかった。モノとしての作品を見せる(だけの)旧来の美術館の作法が、ここでも繰り返されていたわけだ。しかし、欲望のオブジェがさまざまな社会的関係と分かちがたく結ばれている以上、それらを展覧会というかたちで「検証」するやり方については、もう少し(自己)批判的に再考されるべきではないだろうか。モノを見せてよしとする美術の王道が通用する時代はとっくの昔に終わっているし、「検証」にはもっとたくさんのアプローチがある。たとえば、この時代の若者たちによって再編成されたモノと欲望の関係については、1979年のイギリス映画『さらば青春の光』(原題はQuadrophenia、つまり四重人格)が丁寧に描き出している。展覧会に満足できなかった人には、この映画を見ることをおすすめしたい。

2010/07/20(火)(福住廉)

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