artscapeレビュー

新世代への視点2010

2010年09月01日号

会期:2010/07/26~2010/08/07

ギャラリーなつか、コバヤシ画廊、ギャラリイK、ギャラリー現、ギャルリー東京ユマニテ、藍画廊、なびす画廊、ギャラリーQ、Gallery-58、GALERIE SOL、gallery 21 yo-j[東京都]

「東京現代美術画廊会議」による毎年恒例の企画展。11の画廊が選んだ若手作家の個展をそれぞれの会場で同時期に催した。例年に比べて多様な作品がそろっていたような気がして楽しめたが、今回注目したのは富田菜摘(ギャルリー東京ユマニテ)、鎭目紋子(gallery-58)、山本聖子(コバヤシ画廊)。富田は新聞や雑誌から切り抜いたイメージを張り合わせて等身大の人体像などを発表した。コラージュの立体版ともいえるが、異質のイメージを衝突させて異化効果をねらうというより、投資家風の老人には株式欄を、主婦にはスーパーの安売り情報というように、個別のキャラクターに応じたイメージを正確に選び出している。イメージと人格を厳密に対応させることで個体として自立させようとしているわけだが、にもかかわらず、その個体が断片の集合としてしか成立しないところがおもしろい。その対応関係があまりにも強く結ばれているところが気にならないわけではなかったし、欲をいえば、もう少しイメージに多様性と拡がりがあってもいいような気がしないでもないが、それでも統合された人格というものがフィクションにすぎないことを、富田の作品はうまく教えてくれる。車窓から東京のコンクリート・ジャングルを眺めたような絵を描いた鎭目の絵は、透明感があるわりには暗い色調の画面が東京のとらえどころのない陰鬱さを的確に描き出していた。これは、ふだん東京で暮らしている者にはわかりにくいかもしれないが、地方都市や外国から久々に東京に帰ってきた際に強く感じさせられる感覚である。そしてその暮らしの舞台である住宅の間取り図をチラシから切り抜き、それらの連続と集積をインスタレーションとして見せる山本聖子は、昨年の同画廊での個展より規模をさらに大きく発展させ、浴室やトイレだけをそれぞれ集積させた小品にも取り組むなど、自らの作品を新たな方向に着実に展開させていた。壁から少し離して設置されているため、壁に映りこんだ骨組みの影が間取り図を立体的に見させている。間取り図とは、そもそも三次元を二次元に置き換えることで新しい生活への欲望を刺激するものだが、それをさらに立体化して私たちの夢物語を錯綜させてしまうところに山本の作品の醍醐味がある。けれども、それは骨組みだけを抽出しているという点で、三次元への再帰還を果たしているわけではないから、私たちの視線は立体と平面のあいだを果てしなくさまようほかない。寄る辺のない宙ぶらりんの視線運動をまざまざと体感させる傑作である。

2010/07/30(金)(福住廉)

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