artscapeレビュー

浜田知明の世界展──版画と彫刻による哀しみとユーモア

2010年09月01日号

会期:2010/07/10~2010/09/05

神奈川県立近代美術館 葉山館[神奈川県]

今年で93歳になる、版画家にして彫刻家、浜田知明の個展。50年代に制作された銅版画による《初年兵哀歌》シリーズをはじめとする版画作品173点のほか、ブロンズ彫刻73点、デッサンや資料などあわせて300点あまりの作品が一挙に公開された。時系列に沿った構成であるため、浜田の関心が戦争の記憶を版画に定着させることから、社会や時代の風刺へと切り換わり、そして人間の根源を形象化したブロンズ彫刻へと展開した軌跡をたどることができる。そこに一貫しているのは、おそらくは必要最低限のことだけを表現する構えだろう。戦争の悲惨な光景を写実的に描写してメッセージ性を過剰に膨らませるのではなく、かといって抽象化して戦争という主題を曖昧にしてしまうのでもなく、浜田の版画には必要な線を必要な空間にただ配置したかのような単純明快さがある。捨象の美学ともいうべき浜田の態度は、どの角度から見ても無駄な造形が見られないほど簡潔な、近年の彫刻にも通底している。版画にしろ彫刻にしろ、いずれも身に余るほど巨大なサイズではなく、自分の手のひらで制作できる範囲の大きさに限られているところに、等身大の芸術を志してきた浜田の誠意が表れているような気がした。

2010/08/11(水)(福住廉)

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