artscapeレビュー

高橋瑞木『じぶんを切りひらくアート──違和感がかたちになるとき』

2010年09月01日号

発行日:2010年8月26日
編者:高橋瑞木
著者:石川直樹、下道基行、いちむらみさこ、遠藤一郎、志賀理江子、山川冬樹、高嶺格、三田村光土里
発行日:2010年8月26日
発行:株式会社フィルムアート社
価格:2,100円+税



30代から40代前半の中堅アーティストに水戸芸術館の学芸員・高橋瑞木がインタビューした。なにより特徴的なのは、普通だったら躊躇してしまう、けれど本当に聞いてみたいことを単刀直入に質問していること。「スランプはある?」「いま食べていけている?」「どういういきさつでアートを志すようになったの?」etc. なかでも一番興味深いのは、子どもの頃の話。読んでいると多くの作家が子ども時代にすでにいまの活動と同じようなことをしているのだ。遠藤一郎は高校時代に広島へ自転車旅行をしているし、石川直樹は中2のときに高知へ一人旅に出ているし、高嶺格は小2でバンドを組んでいる。また共通しているのは、学校であまりいい経験をしていないこと、管理社会への反発が創作活動のエネルギーになっていること。高橋は彼らの共通点を、学校や社会、あるいは自分自身の身体、あるいはアートへの「違和感」の内にみている(副題は「違和感がかたちになるとき」)。もうひとつ面白いのは、自分をどう称するかについての質問。「あなたは『アーティスト』なのか?」「アーティストは職業なのか?」といった問いは、彼らが社会をどうみて、社会とどう対峙しようとしているかを明らかにする。「ライフ」展を企画した高橋だけある。アートの後ろには必ずライフが隠れている。いや、ライフそれ自体がアートの源泉なのだ。そうした当たり前のことに真っ当な眼差しが注がれている好著。前述のアーティストのほか、いちむらみさこ、下道基行、三田村光土里、志賀理江子、山川冬樹のインタビューが掲載されている。

2010/08/31(火)(木村覚)

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