artscapeレビュー

山田脩二『山田脩二 日本旅 1960-2010』

2010年09月15日号

発行所:平凡社

発行日:2010年7月3日

1982年にカメラマンからカワラマン(瓦職人)になった山田脩二の写真集である。本書は、京都駅や六本木ヒルズ、大阪万博の大屋根や東京ビックサイトなど、建築家の設計した作品もあるが、垂直線を厳守する、いわゆる建築写真ではなく、むしろ日本各地を旅しながら、都市部ではない風景と人々の生活を撮影した白黒写真を収録している。いまのデジカメにはない、フィルムならではの、粒子がもつ質感が強い写真だ。そして黒い部分が多い。おおむね時間軸に沿って、1963年から2007年までの写真が並んでいるが、激動した時代の変化を強調するのではない。むろん、すでに失われた風景はある。とはいえ、全体的にあまり変わらない風景であることが興味深い。同じ目を通して撮影したせいもあるのだろう。彼が淡路島に越して、そこを拠点にしたことも一因かもしれない。冒頭を飾る島の棚田と、ラストにある淡路島の農村風景を比較しても、44年という時間の流れを感じさせない。だが、その変わらなさが、とてつもなく新鮮に思われる。

2010/07/31(土)(五十嵐太郎)

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