artscapeレビュー

藤本壮介『建築が生まれるとき』

2010年10月15日号

発行所:王国社

発行日:2010年8月25日

藤本壮介の、ここ10数年の文章からまとめられた著作集である。第一部は、基本的にそれぞれ作品について書かれた文章であり、第二部は、主に藤本が感動した建築や出来事について書かれている。半分作品集的であり、半分論考集的でもある本である。ところで、藤本にとって「言葉」とは何なのだろうか?本書の最後にそのことが触れられている。それは設計を行なう際の「他者」であり「対話の相手」であるという(「言葉と建築のあいだ」)。これは考えてみると意外な言葉である。なぜなら、言葉を発するのは自分であり、つまりは自分が他者だと言っているからである。ただ、ここに藤本の創作に対する姿勢が現われているように思う。藤本の建築は迷いが少ない、つまり、とてもストレートに伝えたいことが表現されているように見える。ただ、それだけでは藤本の建築が持つ微細な複雑性とでもいうべきものが、どうやって現われてきているのか説明し切れない。おそらく、それが「言葉」との対話から生み出されていると言えるのではないか。藤本は「言葉」も「建築」も分かりやすく、的確で、力強い。しかし、両者のあいだには、やはり微妙なずれがあり、そのずれをめぐって、藤本は絶えず問いを繰り返し、その整合性や関係性を問い続けている。それが、真に藤本の建築の強さになっているのではないだろうか。だから本書は、藤本の建築作品と双対をなしていると言ってよいだろう。

2010/09/20(月)(松田達)

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