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ラヴズ・ボディ──生と性を巡る表現

2010年11月15日号

会期:2010/10/02~2010/12/05

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

いい展覧会だった。「ラヴズ・ボディ」という展覧会は1998年にも開催されていて、この時は「ヌードの近現代」がサブタイトルであり、「調和のとれた美しい女性の身体を男性のエロスや性幻想の表象として描く従来のヌードを批判的に検証する」展示だった。今回はその続編というよりは、「エイズを巡る問題提起」をテーマとする作品に視点が絞られている。両方とも笠原美智子のキュレーションによるものだが、10年あまりの時間を経て、明らかに今回の「ラヴズ・ボディ」展の方が引き締まった、密度の濃いものになっている。キュレーターの成長の証しが刻みつけられているともいえそうだ。
展示作家はAAブロンソン、ハスラー・アキラ/張由紀夫、フェリックス・ゴンザレス=トレス、エルヴェ・ギベール、スニル・グプタ、ピーター・フジャー、デヴィッド・ヴォイナロヴィッチ、ウィリアム・ヤンの8人。このうち、ゴンザレス=トレス、ギベール、フジャー、ヴォイナロヴィッチが、既に死去していることからも、1980年代~90年代にかけて、エイズがアート・シーンにも猛威をふるい、「生と性」を巡るぎりぎりの表現行為に集中することをアーティストたちに強いたことがわかる。現在、エイズは治療法の発達によって致死性ではなくなったものの、病の日常化というまた別の問題をもたらしつつあると思う。そのあたりに目を向けた、ハスラー・アキラ/張由紀夫の軽やかに弾むような、映像と人形による作品が選ばれているのがよかった。また、インドにおけるゲイ・カルチャーという、これまではタブーだった状況を撮影したスニル・グプタの「マルホトラのパーティ」のシリーズは、このような企画でしか紹介できない作品だろう。
おそらく観客動員はあまり期待できないと思う。だが、こういう地味だが志の高い展覧会をしっかりと実現していくことが、東京都写真美術館への信頼感を高めることにつながっていくのではないだろうか。

2010/10/03(日)(飯沢耕太郎)

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