artscapeレビュー

梶井照陰「KAWA」

2010年11月15日号

会期:2010/09/17~2010/10/16

FOIL GALLERY[東京都]

梶井照陰の前作『NAMI』(リトル・モア、2004)は「見る」という行為に徹底して没入することで、知覚の限界を超えた何ものかを呼び寄せるような気魄あふれるシリーズだった。今回の「KAWA」(FOILから同名の写真集も刊行)でも、クローズアップを中心に、被写体となる水の波動を正面から受けとめ、肉迫していく姿勢そのものに変わりはない。だが、佐渡島の海の「波」にのみ焦点を絞った前作と違って、今回は世界各地の川、瀧などにも撮影場所を求めている。そのせいもあるのだろうか。どこか視点が拡散し、「これも、あれも」という迷いが生じてきているように感じた。
こういう作品を見ると、つくづく写真家の仕事というのは難しいものだと思う。『NAMI』は各方面で話題を集め、スケールの大きな作者の誕生を高らかに告げた写真集だった。当然、皆、彼は次に何を撮るのだろうという期待を持つわけで、梶井もそれに応えるべく、全身全霊で新たなテーマにチャレンジしていった。そこで被写体の幅を広げていくという選択は充分にありうることで、「KAWA」からもその意欲が伝わってくる。だが結果的には、『NAMI』にはあった「これしかない」という確信が薄らいだように見えてしまう。今はやや難所にさしかかっているとは思うが、梶井が本来備えている写真家としての可能性がまったく消えてしまったわけではない。こういう試行錯誤の繰り返しから、「次」が見えてくるのではないだろうか。

2010/10/07(木)(飯沢耕太郎)

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