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東京大学建築学科難波和彦研究室『東京大学難波和彦研究室 活動全記録』

2010年11月15日号

発行所:角川学芸出版

発行日:2010年09月23日

タイトルどおりの研究室の記録だ。6年半は決して長くはない期間だが、その密度の濃いことに驚かされる。安藤忠雄の在籍時は、彼のネットワークを生かし、超有名な外国人建築家を東京大学に招き、連続講演会が企画されたが、難波は実にさまざまなムーブメントを仕かけ、議論の場を数多く構築してきたことが特徴だろう。筆者も、安田講堂で開催された卒業設計の公開講評会、後に書籍化された近代建築論講義や技術と歴史の研究会におけるレクチャーなど、そのなかで幾度か関わっていたことを再確認した。デザイン系の研究室が、コンペに参加したり、ワークショップを行うことはめずらしくない。だが、他の研究室や他大学とも交流しつつ、サステナブル・デザイン講義や読書会、あるいは研究プロジェクトや論文指導などを通じ、ここまで歴史をベースに建築論や都市論を展開してきた活動は、他にあまり類例がないだろう。言説の場が次々と失われたゼロ年代だからこそ、理論とデザインをつなぐ難波研究室の存在は、大きな意味をもっていた。

2010/10/31(日)(五十嵐太郎)

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