artscapeレビュー

田中真吾 展─踪跡─

2010年12月01日号

会期:2010/11/01~2010/11/24

INAXギャラリー2[東京都]

大量のDMやプレスリリースを一枚一枚シュレッダーにかけるのが面倒なので、いっそ火をつけて一気に燃やしてしまいたいという欲望にかられることがよくある。逆にいえば、そういう欲望が抑圧されるほど、現状の都市生活では火の使用が禁じられているわけだ。田中真吾の作品を見ていると、燃焼のカタルシスとともに火を使いこなしてきた人類の知恵を思い出す。それは、幾重にも重ねた画用紙を平面ないしは正立方体やピラミッド状に整え、燃焼によってめくれ上がった焦げ目の造形を見せる作品だ。黒松の樹皮のような凹凸のあるマチエールと白い紙の対比がひときわ美しいが、硬質の印象とは裏腹に、じっさいは少し触れただけで崩れ落ちてしまうほど脆い。その微妙な均衡関係が、火が内側に抱える破壊的な性格と通底していることは明らかだ。火はすべてを焼き尽くすことができるが、その寸前で踏みとどまることで人類の歴史は築かれてきた。だとすれば、火から遠ざけられている現代人は、もしかしたらもはや「人間」ではないのかもしれない。

2010/11/11(木)(福住廉)

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