artscapeレビュー

神村恵『飛び地』

2010年12月01日号

会期:2010/11/26~2010/11/28

シアターグリーン・BOX IN BOX THEATER[東京都]

美術作家の小林耕平がキャップを被り舞台の脇でスケッチブックを開いては見せる。冒頭。マジックで身体の部位を描いた絵で観客の注意をうながす。「はて?」と思っていると、神村恵ら3人のダンサーが登場し、1人が「二つの乳首に穴が空いていてスースーするので塞ぐ」と言うと残りの2人が動作をはじめた。その動作から察するに、言葉は「指令」で、ダンサーの行為はその「応答」をなしているのだろう。確かに、なんとなく、そうであるらしい動作を確かにしている。だが、どういった応答が狙われているのかあまり判然としない。いかにもな、ストレートな表現は出てこない。指令と応答の関係が緊密に感じられないので、見る者は指令と応答のあいだで宙吊りにさせられる。この宙吊りが冒頭の「はて?」から延々と続く。時折、舞台上の4人が進めている、理解の容易ではない振る舞いが交差してハッとするようなコンポジションが生まれることはあり、そうした瞬間には感動がある。けれども、これを待つには相当の集中力と忍耐力が必要だ。いつも思うのだが、神村作品はソロの場合と出演者が複数の場合とではずいぶんと観客の受ける感触が違う。ソロの場合ならば、神村と観客とで緊密なセッションの関係が容易く生まれるのだが、出演者が複数の場合だと神村と出演者とのあいだで緊密な関係が生じる分、その外で観客はしばしば置いてきぼりをくわされる。今作もそういう印象をもった。残念に思う。

2010/11/27(土)(木村覚)

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