artscapeレビュー

林勇気「the world and fragments of the world」

2010年12月15日号

会期:2010/11/06~2010/12/18

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

新作3点が発表された個展。撮影した膨大な数の写真をすべてパソコンにとりこみ、切り抜き、重ね合わせて制作されるアニメーションは、作家が目にするごく日常の風景や数々のを再構築したもので、記録と記憶の間を彷徨うように移り変わる風景が展開する。林さんのアニメーションの画面には劇的な変化はいつも見られない。登場人物はテレビゲームのなかの主人公のように、ピョンとなにかに飛び乗ったり、モノをよけたり、歩く動作を見せながら、ただ画面の中を同じ方向に移動する。これまで発表された作品ではスクリーンの端から端へ、または上から下へと流れていくように人物が動くもので、その静かなループが音楽的な余韻を与えるものだったが、今展の最新作では、人物は画面の奥へ奥へと進み、景色は3D映像のように空間的な奥行きをもって移り変わっていく。景色は人物が歩き進むと徐々にくっきりと見えてくるが、遠くは霧の中のように朧げで曖昧。「終わり」の見えないその世界のありさまは、自分の日常にも思いをめぐらすものだった。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

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