artscapeレビュー

小谷元彦「幽体の知覚」

2011年01月15日号

会期:2010/11/27~2011/02/27

森美術館[東京都]

写真やヴィデオを用いた作品があるとしても、やはり小谷元彦は彫刻の作家だ。彫刻とはしばしば身体を三次元的にイメージ化する表現形式。「幽体」という言い回しにもあるように、小谷はただひたすら身体のイメージ化に取り憑かれているようだった。「身体のイメージ化」と言ってみたが、見られる対象としての「身体のイメージ化」でもあるだろうが、それだけではなく、対象から刺激を受け続けている見る者の「身体のイメージ化」でもあるだろう。小谷が造形した身体イメージは見る者の知性や感性と言うよりも生命にこそ訴えるのである。ゾッとし、冷や冷やし「やばい」と思わされた瞬間に見る者の体に広がる官能。それは、見ている対象がリアルではなくイメージに過ぎず、現実との距離が確保され、本当に危険なわけではないから成立しているのは確か。と言っても、立体で造形されたイメージは見る者の身体を怯えさせるのに充分で、見る者は自分の身体の存在をこれでもかと確認させられることになる。「映像彫刻」と称される作品では、見る者は登ったり落ちたりする滝のような水の流れに囲まれる。360度スクリーンとなった円筒形の部屋には上下鏡が設えられていて、スクリーンに映された滝に全身が浸たされる錯覚に陥る。小谷の魅力は、そんな最中でも滝のしずくの造形性にうっとりさせられるところで、作品個々のディテールの美しさは圧倒的だ。身体を襲う崇高さとディテールの内にあまねく貫かれている美しさとが共存する作品たち。官能性が強烈に保たれつつもある種の趣味に閉じこもることなく、森美術館の展覧会らしいデートコースへの対応力も備えている。現代美術は観客に理屈ではなく感覚で受けとめさせればよい、と諭されているような気持ちになる。近年あちこちで見かけるそうした戦略の成功例ととらえるべきなのだろう。

2010/12/18(土)(木村覚)

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