artscapeレビュー

下園詠子『きずな』

2011年01月15日号

発行所:東京ビジュアルアーツ/名古屋ビジュアルアーツ/ビジュアルアーツ専門学校・大阪/九州ビジュアルアーツ(発売=青幻舎)

発行日:2010年11月30日

下園詠子は1979年鹿児島県生まれ。九州ビジュアルアーツ卒業後、2001年に個展「現の燈」(コニカプラザ)でデビューし、早くから将来を嘱望されていた。だが2010年度の第8回ビジュアルアーツフォトアワードで大賞を受賞し、この写真集『きずな』の刊行にこぎつけるまではかなり時間がかかった。その10年余りの紆余曲折が決して無駄ではなかったことが、写真集を見るとよくわかる。試行錯誤の積み重ねによって、説得力のある表現に達しつつあるのだ。ビジュアルアーツフォトアワードの審査後に、僕が書いた選評を引用しておこう。
「下園詠子のポートレートを見ていると、被写体からまっすぐに放射される『気』のようなものを強く感じる。ヒトはそれぞれそのヒトに特有の『気』の形を持っているのだが、彼女はそれをまっすぐに受けとめて投げ返す。2001年の最初の個展「現の燈」に展示されたものと近作を比較すると、そのエネルギーのやり取りの精度が高まり、激しさだけでなく柔らかみが生じてきている。彼女の成長の証しだろう」
さらに、彼女が常用している6×6判のカメラの真四角の画面から発する魔力が、より増してきていることも付け加えておきたい。「気」を呼び込むための装置もまた、以前にくらべると自在に使いこなすことができるようになったということだ。

2010/12/08(水)(飯沢耕太郎)

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