artscapeレビュー

第12回三木淳賞 金川晋吾 写真展「father」

2011年01月15日号

会期:2010/12/07~2011/12/13

ニコンサロンbis新宿[東京都]

三木淳賞は、ニコンが主催する35歳までの若い写真家たちの公募展「Juna21」の出品作から選出される賞。今年の第12回三木淳賞には、2010年2月23日~3月1日に新宿ニコンサロンで開催された金川晋吾の「father」が選ばれた。
金川は1981年生まれ京都生まれで、東京藝術大学先端芸術学科大学院在学中。「蒸発」をくり返す父親にカメラを向けたこのシリーズは、以前からずっと気になっていたものだが、2月~3月の展示を見過ごしていたので、受賞記念展が開催されたのはありがたかった。家族や社会との関係を自ら断ち切り、「何もない人間」になってしまった父親を撮影し続けることによって、かろうじてその存在の痕跡を浮かび上がらせようとする切迫した行為の集積であり、微温的なもたれあいを感じさせる凡百の「家族写真」とは完全に一線を画する。「何もない人間」が発する荒廃の気配が、写真にぬぐい切れずに漂っていて、痛々しく、不気味でさえあるのだ。とはいえ、ぎりぎりの撮影行為を続けることで、なぜかほのかな「希望」のようなものがあらわれてくるように感じるのはなぜだろうか。ここからさらに何かが見えてくる可能性を秘めた、新たなドキュメンタリーの方法論が模索されている。
一緒に展示してあった「2009・4・10~2010・4・09」と表紙に記されたフォトブックも興味深かった。父親本人にカメラを持たせ、毎日セルフポートレートを撮影してもらう。その一年間の写真の集成である。時々抜けている日もあるが、それでもかなりこまめに撮影を続けている。その無表情の集積を見ているうちに、哀しみとも怒りとも虚しさともつかない感情がじわじわとせり上がってくる気がした。

2010/12/08(水)(飯沢耕太郎)

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