artscapeレビュー

木村友紀「無題」

2011年01月15日号

会期:2010/09/05~2011/01/11

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

2010年の最後に木村友紀の展覧会を見ることができて本当によかった。IZU PHOTO MUSEUMの展示は会期が長いので、逆にうっかりするとまだまだと思っているうちに見過ごしてしまうことになりかねない。この展覧会も危うくそうなりかけていたのだが、年末近くになって何とか間に合った。
木村友紀の作品は、さまざまな写真を蒐集するところからはじまる。自分が撮影したものもあるが、家族のアルバムの中から見つけだしたもの、滞在先の街の「蚤の市」のような場所で買い集めたもの、友人から送られたものなどもある。つまり自分自身の制作物、所有物として徴づけられたものはむしろ少なく、多くは「他者」に帰属するものだ。木村はそれらを大きく引き伸ばし、再配置し、写真同士、また他のオブジェなどと組み合わせてインスタレーションする。その手際がとても洗練されていて、見ていて実に楽しい。
たとえば、どこともしれないオフィスを撮影した写真の前には、鉢植えの観葉植物が写真に触れるように置かれているが、それは写真の中に写っている観葉植物と対応するものだ。黒胡椒の実が写真の上に散乱しているインスタレーションがあるが、それは写真の中の雑然としたモノの状態に呼応している。また、海外で購入したセピア色に変色した飛行機の前半分のカラー写真には、祖父のアルバムに貼られていたというモノクロームの「飛行機型のハリボテの建物」のイメージがつけ合わされている。
つまり、木村の作品は「内と外」「自己と他者」「イメージの内側の世界と外側の現実の世界」との対応関係を、巧みな操作によって浮かび上がらせるところに特徴がある。そのことによって彼女がもくろんでいるのは、写真をある特定の意味や文脈に固定することなく、開放的な場に解き放ち、さまざまな形のイマジネーションを発動する装置として、積極的に「利用」していくことだろう。その作業を目にすることで、鑑賞者もまた、映像を巡ってめまぐるしく飛躍し、変転していく彼女の思考の渦に巻き込まれていく。その巻き込まれ方に、固い殻が破れて液体化していくような妙な快感がある。以前は彼女の作品には、底意地の悪さ、微妙な悪意を感じさせるものが多かった。それが今回はほとんど鳴りを潜めているのがちょっと気になる。木村にはただの趣味のいいインスタレーション作家にはなってほしくない。もちろん、本人もそのあたりは十分に承知しているとは思うのだが。

2010/12/26(日)(飯沢耕太郎)

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