artscapeレビュー

植田正治「写真とボク」

2011年02月15日号

会期:2010/12/18~2011/01/23

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

没後十年ということで、美術館「えき」KYOTOを皮切りに5カ所を巡回中の植田正治展が、ようやく首都圏に回ってきた。いうまでもなく、幅広い人気を持つ写真家であり、回顧展も何度も開催されている。いかに新味を出すのかが課題だと思っていたのだが、むしろオーソドックスな構成に徹することでしっかりとその作品の魅力を伝えることができたのではないかと思う。
代表作約200点は「初期作品 1930─40年」「砂丘劇場」「風景、『かたち』・・・1950年代の作品より」「童暦」「風景の光景」「小さい伝記」「音のない記憶」「オブジェなど」「砂丘モード」の10パートに分けて展示され、途中に未発表ネガからプリントされた家族写真「僕のアルバム 1935年代─50年代未発表写真より」が挟み込まれている。この流れは自然で澱みがなく、観客もすんなりと植田の構成感覚と叙情性とが溶け合った作品世界に入り込むことができるように工夫されていた。今回あらためて注目したのは、1970~80年代の「風景の光景」のシリーズ。35ミリフィルムカメラで、日常の「風景」のなかの非日常的な「光景」を切り取った、どちらかといえば地味な作品だが、じっと見つめていると「モノがそこにそのようにあること」の不思議さと不気味さがじわじわと伝わってくるように感じる。海に波がまさに立ち上がろうとする瞬間を捉えた一枚など、哲学的といいたくなるような深みがある。ともすれば感覚的、遊戯的に見られがちな植田正治の写真だが、彼のなかには写真を通じて物事を認識していこうとする意志が貫かれていたのではないだろうか。

2011/01/16(日)(飯沢耕太郎)

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