artscapeレビュー

栄木正敏のセラミック・デザイン──リズム&ウェーブ

2011年03月01日号

会期:2011/01/08~2011/02/13

東京国立近代美術館本館 ギャラリー4[東京都]

栄木正敏は陶磁器専門のプロダクト・デザイナー。デザイン好きであった高校生のころ、偶々日本橋三越で森正洋がデザインした土瓶に出会ったことが、陶磁器デザインとの関わりの最初であるという。「高校生でも買えるこんな格好いいものが自分でもいつか作ってみたいと思うようになった」という彼は、武蔵野美術短期大学で学んだ後、瀬戸を拠点に仕事をしてきた。「当時、瀬戸では和食器のデザインは伝統デザインの模倣アレンジに価値があり、洋食器やノベルティは欧米貿易商の持ち込むデザインで事足りていて、デザインとしての「独立」はなかった。……五百も陶磁器工場が林立しているのに陶磁器デザイナーもデザインを望む工場も皆無の状態であった」(栄木正敏「私の陶磁器デザインと『三つのびっくり』」(『現代の眼』585号、3頁))。
デザインへの需要がない状況の下で、彼は杉浦豊和らとともにセラミック・ジャパンを設立し(1973年)、自らデザインし、製造し、販売する新しい道筋を作り上げる。すばらしいことに、この会社は小松誠、最近では秋田道夫など、さまざまなデザイナーとコラボレーションを行ない、優れたデザインの作品を多数送り出しているのだ。
栄木正敏は、カタチをデザインするのみならず、石膏原型を含む製品化への工程すべてにかかわっているという。そうしてでき上がる作品は、十分に機能的でありながらも装飾性を強調し、デザインによる差別化を目指す。
彼の作品を手に入れて日常が劇的に変わるわけではない。食卓の上にあって、なにかが少し変わる。それは冷蔵庫やエアコンが新しくなるとか、テレビが新しくなると言うこととは違う。もたらされる機能はそれまでと変わらない。なにか新しいことが始まるわけでもない。使っていて、気持ちが変わる。そして、いわゆる「陶芸家」の作品とは異なり、そのことを強く意識しないでも手に入れることができる。いつの間にか食器棚の中に入っているかもしれない。食卓に並んでいるかもしれない。割れてしまうことはあるだろう。しかし、家電のように古くなったから、故障したからと買い換えられることはない。親の世代から子の世代へと受けつがれ、使われ続けることもある。売られ続けるだけがロングライフデザインではない。使われ続けることも大切だ。そうしたものづくりとは、なんと幸せな仕事であろう。[新川徳彦]

2011/02/10(木)(SYNK)

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