artscapeレビュー

荒木経惟「愛の劇場」

2011年03月15日号

会期:2011/02/18~2011/03/26

Taka Ishii Gallery Photography/Film[東京都]

六本木の青山ブックセンター裏手のピラミデビルに、4つの現代美術・写真ギャラリーが同時にオープンした。オオタファインアーツは勝ちどきから、ワコウ・ワークス・オブ・アートは西新宿から、Zen Foto Galleryは渋谷からそれぞれ移転し、Taka Ishii Galleryは清澄白河の本体に加えて写真・映像部門を新たに開設することになった。森美術館にも近く、絶好の立地条件なので、かなりの観客動員が期待できそうだ。
他の3つのギャラリーは、所属作家の作品を並べただけの顔見せ展でスタートしたのだが、Taka Ishii Gallery Photography/Filmは荒木経惟の個展を開催した。最近見つかったという、キャビネ判の印画紙の箱におさめられた1965年頃の写真シリーズである。65年といえば、荒木がまだ電通の広告カメラマンだった時期で、にもかかわらず会社のスタジオや機材を勝手に使って自分の作品を撮りためようとしていた。内容的にはかなり雑多なシリーズだが、ラブホテルでの二人の女の絡み、ハーフサイズのカメラを使ってひとつの画面に複数の連続場面をおさめる試み、フィルムの高温現像による画像の改変など、のちの『ゼロックス写真帖』(1970年)に通じるさまざまな実験に真面目に取り組んでいるのがわかる。若き日の陽子夫人のういういしいポートレートが含まれているのも興味深い。まさに「その頃の私の女と時代と場所が写っている」意欲作だ。荒木のこのような未発表作品は、これから先ももっとたくさん出てきそうな気がする。

2011/02/18(金)(飯沢耕太郎)

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