2018年05月15日号
次回6月1日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

P to P GIFT 2018 ─Problem to Product Gift ─

会期:2017/11/30~2018/02/12

d47 MUSEUM[東京都]

「持続可能な開発目標(SDGs)」が2015年9月に国連で採択され、ここ最近、日本でも持続可能というキーワードが注目されるようになった。数年前に安倍政権が掲げ、多くの関心が寄せられている「地方創生」においても、持続可能が求められていると言っていい。本展はまさにそんな世情を汲んだ内容であった。d47 MUSEUMは工芸、食、ファッションなどさまざまな切り口で、47の展示台を使い、日本のものづくりを47都道府県均一に伝えるミュージアムだ。


展示風景
d47 MUSEUM[提供:D&DEPARTMENT PROJECT]

本展では日本各地が抱える問題に対して、その土地らしい自然環境や特産物、人材などの資源や技術を使い、循環を考えた持続性のあるものづくりで解決に挑んだ事例が紹介されていた。展示台に載っているのは、その取り組みから生まれた製品である。なおかつその取り組みを発信するためのデザインの工夫があり、“ギフトになりうる製品”という選定基準まで設けられていた。各都道府県につきひとつとはいえ、正直、そんな優等生な製品が均等にあるものかと疑ってかかっていたが、実際に観てみて驚いた。ギフトという切り口だけあり、パッケージデザインがどれも優れていたからである。プロデューサーのような専門家が仲介している場合もあれば、つくり手自身が自発的に動いた場合もあるという。

例えば興味深い事例のひとつが、埼玉県秩父市で行なわれている「第3のみつ」づくりだ。それは植物の花蜜に代わり、カエデの樹液をはじめ、果実や野菜のジュースを蜂に食べさせる新たな養蜂のことで、日本国内で減少する蜜源を補えるばかりか、蜂を媒介に森林の環境づくりにも役立てられるという。その製品「秘蜜」を試食すると、林檎のジュースを食べさせた蜂の蜜には林檎の香りがほのかにし、そこに新たな価値と可能性を感じた。ものづくりを持続させるためには、最終的には製品が売れなければならない。そのためには土着性を生かしながらも、人々の生活に取り入れられるよう革新性や洗練性を高め、それを伝えるためのデザインが必要になる。そうした意識が、日本各地で根付きつつあることを実感できる展覧会であった。


埼玉県/TAP&SAP「秘蜜」[提供:D&DEPARTMENT PROJECT]

2017/12/01(杉江あこ)

六本木開館10周年記念展 フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年

会期:2017/11/22~2018/01/28

サントリー美術館[東京都]

これほど華麗な磁器の世界があるのかと驚いた。数あるヨーロッパの名窯の中でも、セーヴルの優美さは随一だろう。それもそのはず、創業から間もない1756年にフランス国王ルイ15世の庇護を受け、王立の磁器製作所としてフランス宮廷文化の中で華開いた磁器なのだから。もちろん産業の黎明期には時の権力者が欠かせない。例えばマイセンはザクセン選帝侯でポーランド王アウグスト2世によって誕生し、世界に誇る名窯として発展を遂げた。

セーヴルの発展を導いたのは、ことにルイ15世の寵姫だったポンパドゥール夫人である。金銀細工師や彫刻家、画家などの一流宮廷芸術家たちを集め、夫人の好みの磁器を次々と生み出していった。したがって18世紀には明るいピンクや水色などの背景と金色の縁取りに、美しい庭園や愛らしい子供たちが窓絵に描かれた磁器が多く見られる。その窓絵ときたら、キャンバス画にも劣らないほどの繊細さだ。当時、千種類を超える無数の色絵具が開発されたという。これらの色を表現するのに、いったい何回、窯に入れて焼いたのだろうかと想像するだけで目が眩む。また瑠璃色のような濃い青も誕生し、後にそれは「王者の青」と呼ばれるように、セーヴルをよりいっそう高貴な磁器へと高めた。さらにルイ16世の時代に移るとマリー・アントワネットが好んだ磁器も登場し、磁器を通して、当時の豪奢なヴェルサイユ宮殿の一端を見ることができた。

フランス革命後もセーヴルは国有の磁器製作所として存続し、その流れは現在まで続く。19世紀末期から20世紀初頭にかけては、時代の流行を取り入れ、アール・ヌーヴォー様式とアール・デコ様式に傾倒する。また、1960年代以降は第一線で活躍する芸術家やデザイナーの協力を仰ぎ、磁器芸術に力を注いだ。その中には日本人の活躍も見られ、草間彌生、深澤直人、nendoなどの作品が並ぶ。セーヴルは300年近くに渡って一度も民間化しなかった世界でも珍しい名窯だ。しかも年間生産量がごく限られていて、その製品の多くがフランス国家に収められているという。まるで親の手厚い庇護の下、大切に守られてきた箱入り娘のような存在だからこそ、強く解き放つ優美さがあるのだと思い知った。


左: © RMN-Grand Palais(Sèvres, Cité de la céramique) / Droits réservés / distributed by AMF
パーヴェル・ペトロヴィチのティーセット (1772-73)
右: © RMN-Grand Palais (Sèvres, Cité de la céramique) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF壺《ポプリ・エベール》
フォルム:ジャン=クロード・デュプレシ(父)、装飾:ジャン=ジャック・バシュリエ (1757)
セーヴル陶磁都市

2017/11/24(金)(杉江あこ)

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野生展:飼いならされない感覚と思考

会期:2017/10/20~2018/02/04

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

「野生的なものはエレガントである」。野生とエレガント。一見、相反する言葉にも思えるこの印象的なメッセージから始まる本展は、終始、野生とはいったい何なのかを私たちに突きつけてくる。思想家、人類学者、宗教学者である中沢新一が展覧会ディレクターを務めた本展は、大きく言えば、別名「南方熊楠展」とも言うべき内容であった。会場の前半では、明治時代に米国や英国に渡り、世界的に活躍した博物学者の南方熊楠を取り上げ、南方が後世に残した研究資料に基づいて野生を紐解いていく。中沢はこれまでに南方に関する著書を数多く執筆してきた。例えば偶然の域を超えた発見や発明、的中を南方は「やりあて」と呼んだことや、AとBの関係性でしかない「因果」という西洋思想に対し、AとB、C、D、E……とありとあらゆる事物がつながり合っている「縁起」という仏教思想に着眼したことなどを紹介する。それが人間の心(脳)に野生状態を取り戻すことになると。


展示風景 野生への入り口
21_21_DESIGN SIGHT
撮影:淺川敏

後半では、さらに野生の捉え方を発展させていく。自然と人間とをつなぐ存在を「野生の化身」として、日本人はそれらを「かわいい」造形にする特異な才能を持っていたことを紹介する。「野生の化身」は縄文時代の土偶に始まり、現代の「ハローキティ」や「ケロちゃんコロちゃん」といったキャラクターにまでおよぶ。理由や理屈なく「かわいい」と思う心の赴き、それこそが野生なのだと言わんばかりに。


展示風景 「かわいい」の考古学:野生の化身たち
21_21_DESIGN SIGHT
撮影:淺川敏

冒頭のメッセージで中沢は「まだ管理され尽くしていない、まだ飼いならされていない心の領域」を「野生の領域」と呼んだ。いま、世の中を見渡すと、野生とは真逆のAI(人工知能)の研究に熱心である。AIが人間の知能をはるかに超え、近い将来、人間の仕事の多くがAIに取って代わられるとも言われている。そんな時代だからこそ、中沢はあえて「野生の領域」の大切さを訴えたのではないか。つまりAIへのアンチテーゼである。人間が持ち、AIが持たざるもの、それは一言で言えば野生の感覚と思考なのだ。


2017/11/17(金)(杉江あこ)

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マリメッコ・スピリッツ──パーヴォ・ハロネン/マイヤ・ロウエカリ/アイノ=マイヤ・メッツォラ

会期:2017/11/15~2018/01/13

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

フィンランドのファブリックブランド、マリメッコの人気が日本で高まったのは2000年代に入った頃だろうか。ちょうど北欧デザインのブームと相まって、あの明るい赤とピンクの花柄ファブリック「ウニッコ」を街中でもよく目にした。ただしマリメッコの社史を調べると、1972年に日本と米国で海外ライセンス契約を結んだとあるから、実はそれより30年近く前から日本に入っていたことになる。当時は一時のブームで終わるのかと思っていたが、そうではなかった。今なお人気は健在で、むしろ定番化したように見える。それほど多くの人々を魅了し続けるマリメッコの魅力とは何なのか。

現在、マリメッコには新旧合わせて30人近くの契約デザイナーがいる。そのうち、才能あるパターンデザイナー3人、パーヴォ・ハロネン、マイヤ・ロウエカリ、アイノ=マイヤ・メッツォラの仕事を紹介したのが本展だ。いずれも30〜40代の若手ばかり。ファブリックはもとより、展示の見どころは原画であった。フェルトペンで描いたような素描から、水彩画や切り絵など、それはもう種々様々。切り絵は日本の伊勢型紙のようでもあり、それを原画にしたファブリックは独特の雰囲気を持っていた。つまりマリメッコに人々が魅了される理由はここにあるのではないかと思う。デザイナーが自由にアイディアを練り、丁寧に一筆一筆を手描きしたものだからこそ、原画に力があるのだ。手作り(クラフト)の魅力である。


左:Aino-Maija Metsola 《Juhannustaika(真夏の魔法)》 (2007)
右:Paavo Halonen《Torstai(木曜日)》 (2016)

一方で、本社内にあるプリント工場の様子が映像で紹介されていた。そこに映るのは巨大なロール式スクリーン印刷機である。毎年、100万メートルの生地をプリントしているのだという。これを見ると、マリメッコはあくまでも工業製品(プロダクト)で成功を収めてきたブランドであることを思い知る。当然、そうでなければ世界進出はできていない。クラフトとプロダクト、一般的には相反するこの両面を併せ持ったブランドだからこそ、今のマリメッコの人気があるのだろう。本展ではさらに「JAPAN」をテーマにした作品も展示されており、その解釈は三者三様で興味深かった。

2017/11/17(金)(杉江あこ)

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TAKT PROJECT「SUBJECT ⇋ OBJECT」

会期:2017/11/18~2017/12/03

アクシスギャラリー[東京都]

デザインの展覧会はもはやモノを見せることではない、思考を見せることである。本展を見て、そう強く感じた。TAKT PROJECTは、吉泉聡をはじめとする4人から成るデザイナー集団である。彼らはプロダクト、グラフィック、建築とそれぞれに異なる専門領域を持つため、ひとつのプロジェクトに対して、横断的に思考することができるうえ、ワンストップでデザイン提案できることが強みだ。新進気鋭のデザイナー集団として、いま、デザイン業界で注目されている。そんな彼らが設立5年目にして初の個展を開いた。


展示風景
アクシスギャラリー
撮影:林雅之

本展では、TAKT PROJECTがこれまでに行なってきた自主研究プロジェクトを中心に7つの事例が展示されていた。いずれも主題「SUBJECT」に対し、それを具現化した物「OBJECT」を展示するという構成である。その一つひとつの主題はまさに「問いかけ」とも言うべきで、彼ららしい思考のプロセスが見て取れる。例えば「素材とプロダクトの境界線を探る」という主題では、電子部品とアクリル樹脂を混ぜ合わせた電気が通る複合材で、懐中電灯や電気スタンドとして機能する物体を作った。一般的に、家電は電子部品が外装材で覆われた作りになっている。しかし彼らは粘土をこねて器を作るかのように、素材そのものが製品となるようなシンプルな家電の作り方を探った。

このように「こうあるべき」という既成概念や枠組みから抜け出すことで、別の可能性につながるのではないかと彼らは思索する。最もユニークな主題だったのは「音楽的に創造する」で、街で環境音を録音するフィールド・レコーディングに着想を得て、レコーダーの代わりにハンディー3Dスキャナーを持ち、街でさまざまな物の形を採取し、そのCADデータを元に新たな造形を作った試みである。おそらくデザインに関わりのある者以外は、これらの主題はややマニアックに映るに違いない。しかも展示物は、今すぐ製品化できるものばかりではない。それでもあえて問いかけるのは、彼らが慣習通りのデザイン手法に満足することなく、何かしらのブレイクスルーを常に求めているからだ。こうした姿勢を持ち続けているからこそ、彼らから革新的なデザインが多く生まれているのである。


TAKT PROJECT《COMPOSITION》
撮影:林雅之

2017/11/17(金)(杉江あこ)

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