杉江あこ:著者で見る|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
次回9月3日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

マリメッコ・スピリッツ──パーヴォ・ハロネン/マイヤ・ロウエカリ/アイノ=マイヤ・メッツォラ

会期:2017/11/15~2018/01/13

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

フィンランドのファブリックブランド、マリメッコの人気が日本で高まったのは2000年代に入った頃だろうか。ちょうど北欧デザインのブームと相まって、あの明るい赤とピンクの花柄ファブリック「ウニッコ」を街中でもよく目にした。ただしマリメッコの社史を調べると、1972年に日本と米国で海外ライセンス契約を結んだとあるから、実はそれより30年近く前から日本に入っていたことになる。当時は一時のブームで終わるのかと思っていたが、そうではなかった。今なお人気は健在で、むしろ定番化したように見える。それほど多くの人々を魅了し続けるマリメッコの魅力とは何なのか。

現在、マリメッコには新旧合わせて30人近くの契約デザイナーがいる。そのうち、才能あるパターンデザイナー3人、パーヴォ・ハロネン、マイヤ・ロウエカリ、アイノ=マイヤ・メッツォラの仕事を紹介したのが本展だ。いずれも30〜40代の若手ばかり。ファブリックはもとより、展示の見どころは原画であった。フェルトペンで描いたような素描から、水彩画や切り絵など、それはもう種々様々。切り絵は日本の伊勢型紙のようでもあり、それを原画にしたファブリックは独特の雰囲気を持っていた。つまりマリメッコに人々が魅了される理由はここにあるのではないかと思う。デザイナーが自由にアイディアを練り、丁寧に一筆一筆を手描きしたものだからこそ、原画に力があるのだ。手作り(クラフト)の魅力である。


左:Aino-Maija Metsola 《Juhannustaika(真夏の魔法)》 (2007)
右:Paavo Halonen《Torstai(木曜日)》 (2016)

一方で、本社内にあるプリント工場の様子が映像で紹介されていた。そこに映るのは巨大なロール式スクリーン印刷機である。毎年、100万メートルの生地をプリントしているのだという。これを見ると、マリメッコはあくまでも工業製品(プロダクト)で成功を収めてきたブランドであることを思い知る。当然、そうでなければ世界進出はできていない。クラフトとプロダクト、一般的には相反するこの両面を併せ持ったブランドだからこそ、今のマリメッコの人気があるのだろう。本展ではさらに「JAPAN」をテーマにした作品も展示されており、その解釈は三者三様で興味深かった。

2017/11/17(金)(杉江あこ)

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TAKT PROJECT「SUBJECT ⇋ OBJECT」

会期:2017/11/18~2017/12/03

アクシスギャラリー[東京都]

デザインの展覧会はもはやモノを見せることではない、思考を見せることである。本展を見て、そう強く感じた。TAKT PROJECTは、吉泉聡をはじめとする4人から成るデザイナー集団である。彼らはプロダクト、グラフィック、建築とそれぞれに異なる専門領域を持つため、ひとつのプロジェクトに対して、横断的に思考することができるうえ、ワンストップでデザイン提案できることが強みだ。新進気鋭のデザイナー集団として、いま、デザイン業界で注目されている。そんな彼らが設立5年目にして初の個展を開いた。


展示風景
アクシスギャラリー
撮影:林雅之

本展では、TAKT PROJECTがこれまでに行なってきた自主研究プロジェクトを中心に7つの事例が展示されていた。いずれも主題「SUBJECT」に対し、それを具現化した物「OBJECT」を展示するという構成である。その一つひとつの主題はまさに「問いかけ」とも言うべきで、彼ららしい思考のプロセスが見て取れる。例えば「素材とプロダクトの境界線を探る」という主題では、電子部品とアクリル樹脂を混ぜ合わせた電気が通る複合材で、懐中電灯や電気スタンドとして機能する物体を作った。一般的に、家電は電子部品が外装材で覆われた作りになっている。しかし彼らは粘土をこねて器を作るかのように、素材そのものが製品となるようなシンプルな家電の作り方を探った。

このように「こうあるべき」という既成概念や枠組みから抜け出すことで、別の可能性につながるのではないかと彼らは思索する。最もユニークな主題だったのは「音楽的に創造する」で、街で環境音を録音するフィールド・レコーディングに着想を得て、レコーダーの代わりにハンディー3Dスキャナーを持ち、街でさまざまな物の形を採取し、そのCADデータを元に新たな造形を作った試みである。おそらくデザインに関わりのある者以外は、これらの主題はややマニアックに映るに違いない。しかも展示物は、今すぐ製品化できるものばかりではない。それでもあえて問いかけるのは、彼らが慣習通りのデザイン手法に満足することなく、何かしらのブレイクスルーを常に求めているからだ。こうした姿勢を持ち続けているからこそ、彼らから革新的なデザインが多く生まれているのである。


TAKT PROJECT《COMPOSITION》
撮影:林雅之

2017/11/17(金)(杉江あこ)

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