2018年06月15日号
次回7月2日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

Re又造

会期:2018/04/11~2018/05/05

EBIS 303 イベントホール[東京都]

近ごろ大きな展覧会に行くと、目玉作品の絵を映像化して動かしたり、立体化したりする例が増えている。昨年の「ブリューゲル『バベルの塔』展」では、映像によって塔で働く人たちを動かしてみたり、塔を高さ3メートルを超える立体に再現してみたり、漫画家の大友克洋が塔の内部を想像で描いてみたり、一昔前にはありえないような試みをやっていた。なぜ一昔前にはありえなかったかというと、ひとつは技術的問題があるが、これは単純にCG映像の発達・普及によってクリアされる。もうひとつは著作権も含めた倫理的問題で、果たして世界的に価値ある芸術作品を現在の解釈で勝手に動かしちゃっていいのか、所有者は許可するのかといった問題がついてくるからだ。でも時代は確実に、そんなカタいこといわず、見て楽しければいいじゃんという方向に流れている。そんなわけで、展覧会の名画は少しずつ動き出している。

「Re又造」は、日本画家の加山又造を紹介する展覧会だが、フツーの展覧会を期待して行ってはいけない。作品は32点だが、原画は11点、つまり3分の1程度で、あとは版画、特殊印刷、陶板、そして映像なのだ。原画はまともに展示しているものもあるが、あえて照明を落としたり、妙な小細工でインスタレーションしているものもあって、まあ楽しめることは楽しめる。んが、絵画とはそれだけで成り立つように描かれているわけで、その上に演出を施すというのは余計なお世話というか、作者に対して失礼ではないかとも思う(もちろん親族の了承を得ているが)。六曲一双の大作《火の島》などは原寸大で映像化し、赤を基調とする山肌や雲をゆっくり動かしていた。たしかにすごい迫力だが、これを見た後で原画を見たらがっかりするかもしれない。山と波と月を描いた《春秋波涛》は、それぞれの図像ごとに3枚に分解し、距離を空けて重ね、立体的に見せている。これはもう原画とは違う作品として見たほうがいい。大きな部屋の天井には巨大な天井画《天龍寺雲龍図》の原寸大複製が張ってあるが、天井画は持ってくることができないのでこの複製は正しい使い方だ。最後は黒い薔薇模様のレースをまとった4人の女性ヌード像《黒い薔薇の裸婦》。なんと女性たちが艶かしく動くのだ。ちょっとやりすぎではないかと思ったが、よくも悪くもこれが展覧会の未来像なのだ。単なる「加山又造展」だったら見に行かなかっただろう。いろいろ考えさせられる、そして、はっきりいって楽しい展覧会だった。

2018/04/11(村田真)

あおいうに個展 公募落選展

会期:2018/04/02~2018/04/14

アートラボ・トーキョー[東京都]

心に病を抱えたいわゆる「メンヘラ」のアーティスト。作品は絵具の滴る人物画や抽象画で、ひょろひょろと線が伸びていたり余白が多かったり、わりとだれが見てもビョーキかなと思ってしまう絵だ。今回は公募展に落選した作品を出しているというので見に行った。「落選展」といえば、1863年のサロンに落選したマネやホイッスラーらが集まって開いた展覧会が有名だが、今回は複数の公募展に落選したたった1人の落選展。だいたい落選作は不名誉なことなので公開されない場合が多いが、彼女によれば、自分の作品は子供みたいなものだから暗い場所に置いておかず、日の当たる場所に出してあげたいというのが親心、というわけだ。公募展に応募したものだけに大作が多いが、小品の方がずっと魅力的に映るのは、それだけ自由に描いている証だろうか。

2018/04/05(村田真)

Street Museum(ストリートミュージアム)

会期:2018/03/16~2018/05/27

東京ミッドタウン・プラザB1メトロアベニュー[東京都]

東京ミッドタウンが主催するアートとデザインのコンペのうち、2017年度のアートコンペ受賞作家6人による新作展。なんだか加藤泉によく似た絵があった。作者の大野光一は昨年のコンペでは、粗末な小屋をしつらえてそのなかに同じような顔の絵をびっしり展示したが、そこでは絵そのものより、小屋の小さな窓から絵をのぞくという見せ方におもしろさがあった。ところが今回はピラミッド型に並べているとはいえ、絵そのものが露出しているため「加藤泉の亜流」感が前面に出てしまっている。絵を見せたいのか、「見せ方」を見せたいのか。

それに対して、昨年はどことなくミケランジェロの《ピエタ》を思わせないでもない大きな木のかたまりを出した七搦(ななからげ)綾乃は、今回、白い台座(箱)の上に小さな茶色い物体(木彫)をボソボソッと置いた。遠くから見ると、色といい形といいサイズといい「ウンコ」を連想させ、ドキッとした。別にウンコを連想させるからよいのではなく、きれいに整備された都市空間、いかにも作品然とした作品が並ぶ会場に違和感をもたらしているからいいのだ。欲をいえば、中央と四隅の5カ所に整然と並べるのではなく、もっとランダムに配置すればより効果的だったのではないか。…と書いてしばらくして行ってみたら、なんと作品の数が増え、ランダム感が増していた。すばらしい。


[写真:2018年開催の様子]

2018/04/04(村田真)

県美プレミアム Back to 1918:10年ひとむかしと人は言う

会期:2018/03/17~2018/06/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

10年前の2008年から、1998年、1988年と10年ごとにさかのぼり、1918年までの各年に関連する作品を並べたコレクション展。2008年は森村泰昌、ヤノベケンジら、1998年は高松次郎(没年)、1988年は植松奎二、柄澤齋ら、1978年は荒川修作、横尾忠則ら、1968年はデュシャン、磯辺行久ら、といった具合。作品は必ずしもその年につくられたものばかりではないけれど、どれも時代を感じさせる選択となっている。まあこんなことはコレクションが豊富でないとできないこと。

サーッと流しながら、ふと足が止まったのは1938年の阿部合成による《見送る人々》。出征する兵士を見送っているのだろうか、題名どおり見送る人々の顔が日の丸とともに画面いっぱいに描かれていて、なぜかとてもよく目立つ。もうひとつ足を止めたのが、1918年の岡本唐貴の《『自伝的回想画』》より《十五歳の少年が見た米騒動の印象》という作品。1918年といえばまだ大正時代なのに、これだけやけにモダンな絵だなと思ったら、岡本が15歳のときに目撃した米騒動の記憶を、80歳近くになって思い出しながら描いた1982年の作品だという。これはなかなか示唆的だ。どんな人間だろうと死ぬ前に1枚でもいいから昔の記憶を絵に残したら、とんでもなく貴重な財産になるに違いない。

2018/03/31(村田真)

小磯良平と吉原治良

会期:2018/03/24~2018/05/27

兵庫県立美術館[兵庫県]

アカデミックな具象画壇の巨匠・小磯良平と、具体美術協会を率いた前衛の牽引者・吉原治良。同じ阪神地区で生まれ育ちながら、対極的な立場で昭和を生きた2人の画家を、時代を追って対比的に紹介している。東京美術学校を首席で卒業した小磯は、さすがにウマイ。在学中に帝展で特選を受けた《T嬢の像》などは、比類ない描写力で知られるドガ+安井曾太郎の巧みさだ。でもこのウマさが災いして、スタイルを崩そうにもなかなか崩せなかったり、後の戦争画制作に巻き込まれる要因にもなった。一方の吉原は独学のせいか、写実的な技量より個性を重んじ、《縄をまとう男》のような快作(怪作)をものしていく。戦後、具体美術協会の後輩たちに「人の真似をするな、いままでにないものをつくれ」と指導したことはよく知られているが、これは彼の生涯を貫く信念だった。

そんな2人の道が決定的に分かれるのが戦争の時代だ。小磯はその描写力と群像表現を買われて軍から戦争画を依頼され、従軍して多くの戦争画を制作。なかでも《南京中華門戦闘図》は昭和14(1939)年度朝日文化賞、《娘子関を征く》は第1回芸術院賞を受賞するなど、藤田嗣治と並んで戦争画のスターに祭り上げられていく。対する吉原は、戦況の激化によりシュルレアリスムや抽象表現が禁じられたため、やむなく《菊(ロ)》のように国花を抽象的に表わしたり、《防空演習》のように銃後の生活を描いたりしてお茶を濁した。というと、吉原に同情が集まり、小磯は戦犯画家扱いされかねないが、小磯も決して藤田のように嬉々として戦争画を描いたわけでないことは、戦闘図より会見図や式典図など穏やかな主題が多かったことや、戦時中も女性像や母子像を手がけていたことからもうかがえる。少なくとも戦争協力にあまり乗り気でなかったことはたしかだろう。のちに戦争画を描いたことを悔い、回顧展に戦争画が出品されることを拒んでいたという。

戦後になるといっそう2人の道は分かれていく。小磯は東京藝大の教授に収まり、一時期幾何学的構成を試みたりしたものの、まもなく写実表現に回帰。吉原は関西で具体美術協会を結成し、フランスのアンフォルメル運動とも同調しつつ、自身は表現主義的抽象からフラットで明快な抽象へと移行した。アカデミズムとアヴァンギャルド、具象画壇と現代美術、ドメスティックとグローバルと平行線を歩んだ両者だが、同時代の同じ地域に同じ画家として生きただけに、何度も顔を合わせたことがあるはず。カタログを見ると2人が一緒に写っている写真が載っているが、あまり親しげではない。というより妙によそよそしい感じがする。お互い近いのに遠いと感じていたのか、遠いのに近いと感じていたのか……。

2018/03/31(村田真)

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