2018年12月15日号
次回1月15日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

CSP5 志向と選択 - Creative Spiral Project vol.5 –

会期:2018/09/13~2018/10/09

東京造形大学付属美術館[東京都]

単に同じ学校を出たというだけのグループ展など見る気もしないが、気になる作家が入っていたし、どうせ毎週キャンパスに通っているので授業の後で見に行ったら、いやこれがおもしろかった。出品は鈴木のぞみ、樋口明宏、高田安規子・政子、五月女哲平の4組。グループ展では1人でもおもしろいヤツがいれば「よかった」と評価しなければならないが、これは珍しいことに全員がおもしろかった。しかもおもしろさがバラバラではなく、ひとつの方向性を示していた。

まず、鈴木のぞみ。彼女はいま4組のなかでいちばん露出度が高い作家だ。窓や鏡の表面に写真乳剤を塗り、それが置かれていた場所の情景を写し取る。その窓や鏡を使っていた人の記憶をそこに焼きつけたかたちだ。初めて見たとき、人類最初の写真(ヘリオグラフィ)を撮ったニエプスの風景写真を想起させたが、今回セコハンの鏡を使った作品には人の顔が映っているものもあって、心霊写真のような不気味さを増幅させている。高田姉妹は黒いハンカチの縁を飾るレースに細工して鉄の飾り門に見立てたり、チョークに縦筋を入れて円形に並べてプチ古代遺跡を現出させたり、ハンドバッグに施されたロココ調の刺繍を延長して立体化させるなど、素材やサイズや価値観をまったく転倒させている。五月女哲平は(見間違えたかもしれないが)写真を額縁に入れ、ガラス(か透明アクリル)面を覆うように黒いシルクスクリーンで刷って画像を隠し、さらに額縁を背中合わせにつないで床に立てている。写真とその上のシルクスクリーン、立体という三重構造による脱臼。

最後に樋口明宏。彼の名前は聞いたことあるようなないような、ほとんど未知の作家だが、作品はずば抜けていた。作品は4点で、ひとつはボロボロの毛皮コートの周囲にウサギのぬいぐるみを配したもの。よく見ると、コートの表面はウサギのかたちに切り抜かれ、その皮でぬいぐるみがつくられていることがわかる。明王像のような古い木彫の腕の位置をずらして部分的に銀箔を張り、ウルトラマンシリーズに変えてしまった《修復—ヒーロー》という作品もある。北海道土産の鮭をくわえた熊の彫り物の熊を白と黒に塗り分けてパンダにした作品は、中国批判と読めなくもない。毛皮のコートにしろ古い木彫にしろ、金の掛け方がハンパない。いったい材料費にいくら使ったのか。そんなことに感動してる場合ではないが。いずれにせよ、4組とも既製品に手を加えて価値を転倒させる手法が共通している。いや意味を転換するだけでなく、いずれも天に唾するがごとき不穏な諧謔精神をもって価値観をひっくり返している。その手際が見事だ。

2018/09/24(村田真)

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世界を変えた書物展

会期:2018/09/08~2018/09/24

上野の森美術館[東京都]

小雨の降る平日の昼前だというのに、館内はけっこう混んでいる。しかもおばちゃんではなく、珍しく学生が多い。理系の学生か。金沢工業大学の「工学の曙文庫」から出展される理工系の西洋稀覯本コレクション。古本好き、洋書マニア、本棚フェチ、文字オタク、科学ファン、図書館フリークには垂涎の展示だ。最初の部屋は両側が西洋の古書の詰まった本棚(前面がアールヌーヴォーのように波打ってる!)に占められ、撮影自由なのでバシバシ撮っちゃいましたね。次の部屋から時代を追って1冊ずつ本を開いたかたちで紹介している。15世紀末のフランチェスコ・コロンナ『ポリュフィルス狂恋夢』(これは理系か?)、16世紀のコペルニクス『天球の回転について』、17世紀のニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』、19世紀のダーウィン『種の起原』など。やはり古い書物ほど大型でずっしり重量感があって、著者や読者の情念がたっぷり染みついた「オブジェ」と化している。時代が下るにつれ徐々にコンパクトになり、18-19世紀ごろにはアウラは薄まり、20世紀には薄っぺらい印刷物に成り下がってしまう。

考えてみれば書物だけでなく、絵画も壁から板、布へ、時計も日時計から置き時計、掛け時計、腕時計、スマホへ、テレビも立方体から徐々に薄型の液晶へ、すべてコンパクトに、ポータブルに、薄くて四角い板状の物体に収斂していく。板に線を引いて色を塗れば絵画に、紙に字を書いて綴じれば本に、画面に電気を通して画像を映し出せばテレビやパソコン、スマホになる。人間にとって四角い板はもっとも手にも目にもなじみやすく、だから知識や情報を伝えるメディアもすべからくこの形態をとるのだ。関係ないけど「モノリス」とはこのことだね。しかしこんな大量に貸し出して曙文庫は空っぽにならないの? どうせ学生は読まないから心配ないって?

2018/09/21(村田真)

飯沼英樹 東京楽園

会期:2018/09/07~2018/09/29

SNOW Contemporary[東京都]

ファッショナブルな女性を彫った木彫が30点以上ある。小は10センチ程度から大は1メートル近いものまで、全身像もあれば胸像もあり、ポーズもひっくり返ったりヨガ風だったりさまざまで、ハデな彩色も施されている。いちばんの特徴は台座がついていて、しかも1本の木から彫り出しているらしく、本体と台座が一体化していること。だれが見ても「彫刻」だが、でも本当にこれは「彫刻」か? と疑ってみたくなるのは、これが床に置いてあるのではなく、壁に掛けてあるからだ。絵画と彫刻を見分ける方法のひとつが「壁掛け」か「床置き」かだとすれば、これは表現形式としては彫刻であるが、展示形式としては絵画(レリーフ)といえないこともない。1つひとつの作品をすっぽり囲むように壁に正方形の色面を施しているのは、絵画性を強調するため額縁の役割を与えているからだ。もっとも壁に固定しているのは台座の部分だけで、彫像は壁と完全に切り離されているので、やはり彫刻というべきか。

飯沼は、絵画と彫刻の違いや額縁と台座の役割にかなり敏感なようだ。今回の出品作品にはもうひとつのタイプがあって、分厚い板に女性像を浮き彫りにして、周囲を板のまま残したもの。彫った部分が彫り残した周囲より沈んでいるため「沈み彫り」ともいうが、この彫り残しがちょうど額縁の役割を果たしているのだ。女性像のポーズやファッションや色彩につい目を奪われてしまいがちだが、こうした形式面にこそ作品の本質が宿っている。

2018/09/19(村田真)

1968年 激動の時代の芸術

会期:2018/09/19~2018/11/11

千葉市美術館[千葉県]

「1920年代」とか「1980年代」とかひとつのディケードをテーマにした展覧会はたまにあるが、それに比べて、ある特定の年に焦点を絞った展覧会は少ない。記憶にあるのは、目黒区美術館の「1953年ライトアップ」、東京都現代美術館の「よみがえる1964年」くらいか(両展とも1996年の開催)。展覧会というのは個展にしろテーマ展にしろ通史的に構成されるものが多いので、特定の年に絞ると時間的な推移が示せなくなるからだろう。一方で、地域性やジャンル間などの横との関係性が明確になり、時代性や社会背景を浮き彫りにしやすいメリットがある。ちょうど半世紀前の1968年が選ばれたのは、その年の美術を紹介したいというより、当時の美術を通して1968年という時代と社会を浮かび上がらせることが目的だったのではないかと思えてくる。

1968年というと、ノンポリのぼくでもパリの五月革命が思い浮かぶように、世界的な反体制運動の季節。日本でも全共闘などの学生運動やベ平連をはじめとする反戦運動などが盛り上がっていた。展覧会はそうした闘争を記録した東松照明や北井一夫らによる写真に始まり、橋本治による駒場祭のポスター、赤瀬川原平の『櫻画報』や「千円札裁判」の記録・資料、羽永光利による新宿風景やハプニングの写真、美共闘のガリ版刷りアジビラ、70年の万博および反万博の写真や資料、横尾忠則、粟津清らによる天井桟敷や状況劇場、暗黒舞踏の公演ポスター、つげ義春や林静一らの漫画、『プロヴォーク』の中平卓馬や森山大道によるブレ・ボケ写真、もの派や概念芸術の作品・資料まで、ざっと450点ほど。時代的には1968年を中心に、赤瀬川原平のいわゆる「千円札裁判」が始まる66年から、万博の開かれる70年まで幅をとっている。

よく半世紀も前のものをこれだけ集めたもんだと感心するが、お気づきのように記録写真や資料、ポスターや漫画などアーカイブやサブカルチャーものが大半を占め、いわゆる「美術作品」らしきものは少ない。もちろん写真も漫画もポスターも美術作品といえばいえるが、いずれも複製芸術であり、1点ものの絵画・彫刻となると、鶴岡政男の《ライフルマン》、山下菊二の《海を渡る捕虜服》、高松次郎ら「トリックス・アンド・ヴィジョン」の出品作、山口勝弘らによる環境芸術やインターメディア作品、李禹煥らのもの派の作品(再制作)など数えるほどしかない。まあ半世紀も前のことだし、当時はインスタレーションやパフォーマンスの先駆的作品が多く、作品自体がその場で消えて残っていないし、なにより「絵画」「彫刻」といった形式が風前の灯だったから仕方がないといえば仕方がない。その代わり勢いがあったのが、時代や社会を反映しやすい写真やポスターや漫画などのサブカルチャーだったというわけだ。見終わったときは美術展とは違い、資料の山にひととおり目を通したという快い疲労感が残った。

2018/09/18(村田真)

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フィリップ・コルバート in 東京

会期:2018/09/04~2018/09/18

日動画廊[東京都]

壁全面に目玉焼きの壁紙を貼り、全長6メートルほどの《ドリーム・ハント・トリプティク》を中心とする展示。この大作はゴッホ、ピカソ、レジェ、フジタら、おもに笠間日動美術館の所蔵する絵画からイメージをサンプリングし、漫画のキャラクターやアイコンなどとともにコラージュ風に描いたもの。また会場中央には、目玉焼きの柄のスーツを着たロブスター人形が数十体並んでいたり、コーナーには撮影用の展示スペースを設けたり。にぎやかで楽しい展覧会だが、ウォーホルにマーク・コスタビにジェフ・クーンズを足して3で割ったような作品および商法はすぐに飽きられ、美術史には残らないでしょうね。

2018/09/18(村田真)

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