2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

運慶

会期:2017/09/26~2017/11/26

東京国立博物館[東京都]

日本の古美術にはあまり関心がないし、彫刻のことも詳しくないけれど、いちおう話題の展覧会なので見に行く。運慶の真作は諸説あるらしいが、一般に30点前後といわれている。だいたいフェルメールと似たようなもんだ。うち22点が出品されるというからジャーナリズム的には「事件」といえるかもしれない。ほかに康慶、湛慶ら父と子の作品も出ていて、キャッチーにいえば「望みうる最高の運慶展」といっていいかも。
彫刻ましてや仏像の見方なんか知らないけれど、でも見ればなんとなく運慶は違うということはわかる。おそらく康慶や湛慶も凡百の仏師に比べれば遥かに優れているのだろうけど、それでもなお運慶のほうが「うまい」と思う。この「うまい」と思う価値判断は、カタログのなかで同館の浅見龍介氏も述べているように、近代的な彫刻家として見たらということであって、けっして仏師としての価値基準ではない。一言でいえば「リアル」ということだ。ポーズといい表情といい衣紋といい、ほかの仏像には見られない個性が感じられ(もちろん作者のではなくモデルの個性)。匿名の人物像ではなく、特定の個人を描いた肖像になっているのだ。さらに玉眼を入れることで反則的にリアリティを増している。《無著菩薩立像》などはミケランジェロよりも近代的だ。
気になるのは色彩の剥落や変色、ひびなどのヨゴレ。《無著菩薩立像》と対の《世親菩薩立像》の顔など色がはがれて黒ずみひび割れ、まるで無惨な焼死体のようだ。まあ仏像の世界ではそんなヨゴレなど本質とは関係のない表面上の現象にすぎない、と思われてるのかもしれない。特に古美術の世界ではこうしたヨゴレはむしろ付加価値として尊ばれることもあるようで、興福寺の《四天王立像》など極端なヨゴレゆえにスゴミが何倍にも増幅されている。逆に《聖観音菩薩立像》みたいにハデな色彩(後補)のほうが安っぽく見られてしまいかねない。不思議なもんだ。
さて、運慶の彫刻で近年ジャーナリズムを騒がせたものに、真如苑の《大日如来像》がある(同展ではまだ運慶作と認められていないが)。この作品は2008年にニューヨークでオークションにかけられ、真如苑が日本美術品の最高値を更新する1400万ドル以上(約14億円)の値で落札し、懸念された海外流出を免れたと話題になったものだ。ところがその直後、村上隆の巨大フィギュア《マイ・ロンサム・カウボーイ》が、やはりニューヨークのオークションで1500万ドル(約16億円)を超す値をつけ、あっさり記録を更新。運慶がフィギュアに負けてしまったのだ。ともあれ、その《大日如来像》、像高60センチ余りと思ったより小さかった。

2017/09/25(月)(村田真)

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Vik MUNIZ/ヴィック・ムニーズ

会期:2017/09/14~2017/09/28

日動画廊本店[東京都]

日動画廊本店にはもう何十年も入ってないが、入ってないのにいうのもなんだが、銀座の一等地に何十年も画廊を構えていられるのはともあれスゴイことだ。今回はnca(ニチドウ・コンテンポラリー・アート)と同時開催の現代美術展なので久々に入ってみた。ヴィック・ムニーズは粉や液体などで絵を描いたり、ゴミを寄せ集めて人物画を再現した写真作品で知られるが、今回は雑誌や画集を細かくちぎって貼りつけ、印象派の絵画を再現したコラージュを写真に撮ったもの。わかりにくいけど、最終的にプリントを作品としている。例えば、遠くからながめるとゴッホの《星月夜》だが、近づくと人の顔やら文字やらが現われるといった仕組み。果物を寄せ集めて人物画に仕立てるアルチンボルドのようなトロンプルイユともいえる。常連らしい中年男性は何度スタッフから説明を受けても理解できない様子。ふだんの日動画廊の作品とはずいぶん違うからね。ゴッホのほか、モネ、ルノワール、セザンヌ、ドガ、藤田嗣治などの絵画をネタにしている。特に藤田の《妻と私》は笠間日動美術館の所蔵作品を元にしたもので、3点売れていた(プリントなので複数ある)。モネの太鼓橋を描いた睡蓮の絵も2点売約済み。どれも日本にある絵を元にしているという。

2017/09/20(水)(村田真)

ヴィック・ムニーズ「Handmade」

会期:2017/09/14~2017/11/04

nca[東京都]

日動画廊本店と同時開催されている個展。こちらはすべて今年つくられた新作で、本店の作品をさらに発展させたもの。発展させたというのは、対象となる作品が20世紀以降の抽象絵画(実在しない)ということもあるが、それだけでなく、2次元と3次元を巧みに織り混ぜてより難易度の高いトロンプルイユに仕立て上げているからだ。例えば白いキャンバスに4本の切れ目を入れたフォンタナまがいの作品。これは図版ではまったくわからないが、ホンモノの切れ目は1本だけで、残る3本は写真、つまり写された切れ目なのだ。同様に、たくさんの色紙が貼ってあるように見える作品も、大半は写真に撮られた色紙で、実際に貼られた色紙は数枚しかない。しかもそれがじつに巧妙にできていて、顔を近づけてようやくホンモノか写真か区別がつくくらい。しょせん「だまし絵」といってしまえばおしまいだが、ここまで完成度が高いと尊敬しちゃう。

2017/09/20(水)(村田真)

パオラ・ピヴィ「THEY ALL LOOK THE SAME」

会期:2017/08/26~2017/11/11

ペロタン東京[東京都]

パオラ・ピヴィって最近聞いたことあるなあと思ったら、ヨコトリにカラフルなクマちゃんのぬいぐるみを出してたアーティストね。カワイイ羽毛に覆われた凶暴なホッキョクグマ。ここでも白と青の2頭のクマちゃんが宙づりになっているが、今回のメインは壁にかけられた9個の回転する車輪のほうだ。車輪はひとつずつ色もサイズもデザインも異なり、回転する向きも早さもそれぞれ違っている。さらに奇妙なのは各車輪にダチョウやキジ、キンケイなどさまざまな鳥の羽根を放射状につけてくるくる回っていること。金属製のカッチリした車輪に、フワフワ軽快な羽根。

2017/09/16(土)(村田真)

渋谷自在──無限、あるいは自己の領域

会期:2017/07/29~2017/09/17

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

2005年にオープンしたトーキョーワンダーサイト(TWS)渋谷が今秋、東京都現代美術館の運営する東京都渋谷公園通りギャラリー(仮称)として生まれ変わるそうだ。ってことで、TWSの最後の企画展として大野茉莉、西原尚、潘逸舟の3人展が開かれた。西原はギャラリー内に古びたトタン板で掘建て小屋を4軒ほど建て、その周囲にも犬小屋か鳥小屋くらいの箱を設置。そのなかに鉄カブトや洗面器などを用いた手づくりの楽器を置いて、タイマーで音が出るように仕掛けた。これはいい。音の出る道具(音具)づくりなら鈴木昭男から松本秋則まで多くの先達がいるが、その音具を効果的に見せる(聞かせる)ための舞台として掘建て小屋まで建てたのは秀逸。いや舞台というより小屋自体も「楽器」の一部と見るべきか。まるで敗戦後の焼け跡の風景を思わせる。2階ではテントを建てて内部に人体の一部を連想させる工作物を吊るし、光を当てて外から影絵のように見せているのだが、これはデュシャンの《独身者の機械》を彷彿させる。渋谷区役所勤労福祉会館内に位置するTWS渋谷の展示空間を最大限に変容させた、最初で最後のすばらしいインスタレーション。
潘は映像と絵画の出品。《海で考える人》と題する映像は深さ2、3メートルほどの海中でプカプカ浮かぶ人を撮ったもので、なにをしてるのかと思ったら、タイトルどおりロダンの彫刻《考える人》のポーズをとり続けているのだ。ブロンズ彫刻とは違い、地に足をつけずに浮遊しながらなにを考えるのか。無重力状態における彫刻のあり方、考え方に再考を促す作品。

2017/09/16(土)(村田真)

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