artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

東京近郊の展覧会(会場構成、インスタレーションの側面から)

[東京都]

10月から11月にかけて、建築家による注目すべき会場構成やインスタレーションが重なった。

西澤徹夫の「偶然は用意のあるところに」展(TOTOギャラリー・間)では、彼が数多く手がける美術展の会場構成のうちのいくつかも紹介されていた。筆者はそれらをすべて訪れていたので、もう存在しない空間を思い出しながら、上から鑑賞する不思議な体験だった。また既存のモノに手を加えるプロジェクト(京セラ美術館の増改築や一連の会場構成)や共同設計(八戸美術館)が多いことに加え、建築家の個展としては希有なことに、現代アート作品(曽根裕など)も同じ空間に展示されるなど、さまざまなレベルで他者が介入している。そして二つずつ作品を並べる分類の方法と類似したキャプションの文章も興味深い。ギャラリー・間は、必ずキュレーターが存在する美術展とは違い、建築家がセルフ・キュレーションを行ない展示をつくり上げるという独自の文化をもつが、ここまで第三者のような手つきで自作を再構成した展覧会は初めてである。


「西澤徹夫 偶然は用意のあるところに」展示風景(TOTOギャラリー・間、上階)


「西澤徹夫 偶然は用意のあるところに」展示風景(TOTOギャラリー・間、下階)


これと同時期に近くで開催されていた「Material, or 」展(21_21 DESIGN SIGHT)は、もっとハイテク系の素材が多いかと思いきや、自然の教えにインスパイアされたような内容が多い。安藤忠雄の個性的な空間に対し、別の建築を重ねたような中村竜治の会場構成が印象的だった。おそらく、展示物のほとんどが床置きになることを踏まえ(実際、壁や台はほとんど使われていない)、既存の高い天井を感じさせないよう、低い壁を走らせたのではないか。


中村竜治が会場構成を手掛けた「Material, or 」展示風景(21_21 DESIGN SIGHT)


「第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”」(資生堂ギャラリー)でも、空間に対して、中村は奇妙な介入を試みている。会場に入って何か違和感があると思ったら、彼が作品として制作した2本の柱が増えていた。筆者が企画した「ほそくて、ふくらんだ柱の群れ」展(OPEN FIELD)でも、中村は円柱をテーマとしていたが、資生堂ギャラリーでは、いわば展示空間を偽装する角柱であり、きわめて不穏である。ほかにも杉戸洋や目[mé]の作品は、空間の使い方がユニークだった。


「第八次椿会」展示風景(資生堂ギャラリー)


アートウィーク東京では、山田紗子による二つの空間構成を楽しむことができた。保坂健二朗のキュレーションによる「平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで」展(大倉集古館)は、12のテーマによって日本の戦後美術を紹介するものだが、伊東忠太の強いクセがある空間に対し、いかに現代アートを馴染ませるかが課題となる。そこで山田は、装飾的な肘木や円柱に呼応するように丸みを帯びた造形の白い什器を設計していた。


山田紗子が空間設計を手掛けた「平衡世界」展示風景(大倉集古館)


彼女のもうひとつのプロジェクトは、大倉集古館とまったく違うデザインの「AWT BAR」である。ホワイトキューブにおいて、直径13ミリメートルの細いスチールバーが縦横無尽に踊る線となって出現していた。抽象的なインスタレーションのようだが、小さいホルダーによってアーティストが提案したオリジナル・カクテルが宙に浮く。


同じく山田による空間設計の「AWT BAR」


中村や西澤の師匠でもある青木淳の退任記念展「雲と息つぎ ─テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編─」(東京藝術大学大学美術館陳列館)は、青木の自作は一切展示されていない。大学の研究室メンバーや中村らも参加し、建築家として会場となった岡田信一郎の設計による陳列館(1929)を丁寧に読み込み、建築家としてそれといかに向き合うかという態度が示されたインスタレーションである。それゆえ、改めて陳列館そのものをじっくりと観察する機会になった。


「雲と息つぎ」展示風景(東京藝術大学大学美術館陳列館)


ちなみに、「仮設的なリノベーション」は、筆者が芸術監督を務めたあいちトリエンナーレ2013における名古屋市美術館で彼に依頼したテーマでもある。新築をつくるだけが建築家の仕事ではない。ここで取り上げた展覧会は、既存の空間に対して介入することも、高度に建築的なデザインになりうることを示唆するだろう。


西澤徹夫 偶然は用意のあるところに:https://jp.toto.com/gallerma/ex230914/index.htm
Material, or :https://www.2121designsight.jp/program/material/
第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”:https://gallery.shiseido.com/jp/tsubaki-kai/
平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで(アートウィーク東京):https://www.artweektokyo.com/focus/
AWT BAR(アートウィーク東京):https://www.artweektokyo.com/bar/
青木淳退任記念展 雲と息つぎ ─テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編─:https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2023/11/clouds-and-breaths.html

2023/10/27(金)〜11/30(木)(五十嵐太郎)

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君島彩子監修「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」/「陶の仏─近代常滑の陶彫」

会期:2023/08/05〜2023/12/25
髙島屋史料館[大阪府]

会期:2023/09/16〜2024/02/25
髙島屋史料館TOKYO[東京都]


宗教学者であり、アーティストの君島彩子が、東西の髙島屋史料館で同時に展覧会を監修していたので、両方の会場を訪れた。新宗教の建築を題材に博士論文を書いた筆者にとって、近代の宗教美術に注目した企画ゆえに、大きな関心を抱いた。また昨年の山形ビエンナーレ2022でも、大きな地図を用いて山形の地蔵調査を展示していた君島の作品が印象に残っている。


山形ビエンナーレ2022「現代山形考 ~藻が湖伝説~」での君島彩子による作品


山形ビエンナーレ2022「現代山形考 ~藻が湖伝説~」での君島彩子による作品


さて、大阪の髙島屋史料館で開催された「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展は、万博において仏教がいかに表象されてきたかを辿るものだ。乃村工藝社蔵の資料などを活用し、詳細な年表とともに、両者の関係を網羅的に探求する、圧巻の内容である。もちろん筆者も、シカゴ万博(1893)における日本館など、東洋風のパビリオンを通じ、断片的に建築の事例は確認していたが、さすがに内部に展示されたモノまではほとんど知らず、また会場のほとんどが撮影禁止だったため、本展覧会の書籍化を強く希望したい。1970年の大阪万博においてFRPで複製された仏像が展示されていたことや、全日本仏教会が議論した挙げ句、無料休憩所の法輪閣を建てたこと、あるいはパビリオンや仏教展示の再利用なども興味深い。実際、この展示を見た翌週に奈良の元興寺を訪れたとき、目立たない場所にネパール館の窓が移植されていることを現地で確認した。前回の万博はアジア初の開催だったため、オリエンタリズムとしての仏教の紹介はなくなったが、はたして2025年の関西万博ではどのような仏教表象があるのだろうか? と考えさせられた。現時点では仏教的なものが展示されるという話はほとんど聞こえてこない。


「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展示風景


大阪万博(1970)後、ネパール館の窓が移植された元興寺


「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展示風景


「万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展示風景。ラオス館の木鐘


もうひとつの会場は、髙島屋史料館TOKYOにおける「陶の仏」展である。明治時代を迎え、西洋の彫刻技術が入ってくるかたわら、常滑で花開いた陶を素材とする仏像制作の近代史を掘り起こすという、きわめてユニークな視点の展示だった。また展示の後半は、常滑陶器学校で学んだ柴山清風に注目し、彼が手がけた千体観音のプロジェクト、戦時下の弾除け観音、巨大な陶像、戦後の仕事などを追う。そして百貨店の屋上では、大阪でも何点か展示していた万博に出品された陶製のベンチを22点設置し(座ることも可能)、二つの会場をつなぐ役割を果たす。

ところで、展示を鑑賞中、「従来の型にはまった仏像は素材や技術だけで、新しい形がないのは無意味な芸術だ」と、スタッフに長々と説教するおじさんの声が聞こえ、呆れかえった。ここは「美術館」でもないし、凄いアートを紹介するという主旨の展示でもないし、的外れの批判である。むしろ、型にはまった見方をずらすことが、企画の醍醐味だろう。また展示で紹介されていたものは単純に近代以前の仏像を模倣したわけでなく、西洋の彫刻技術の影響も入っているはずだ。


万博と仏教─オリエンタリズムか、それとも祈りか?:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/exhibition/
陶の仏─近代常滑の陶彫:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition/

2023/10/20(金)、11/01(水)(五十嵐太郎)

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Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会 2023

会期:2023/10/20~2023/10/30

うめきたSHIPホール[大阪府]

毎年、大阪駅前のうめきたSHIPホールで開催されるU-35、すなわち「35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」は、回を重ねるにつれ展示の手法が洗練されてきており、楽しみにしている秋の企画のひとつだ。今回は実寸大やモックアップの展示物が増え、さらにパフォーマーの実演まで加わり、来年からのハードルがぐっと上がった。主催側や参加者同士での展示のスタディや意見交換が行なわれたことが、こうした結果をもたらしたようだ。そして出品した7組がいずれも異なる個性をもちながら、確かに現代の方向性を感じさせる充実した内容である。

記念シンポジウムでのプレゼンテーションと討議を経て、ゴールド・メダルに選ばれたのは、ともに石上純也事務所出身であり、そのセンスを継承しているアレクサンドラ・コヴァレヴァ+佐藤敬だった。彼らの展示では、会場の広さを見事に生かし、ほとんど板状になった極薄のプロポーションをもつ住宅《ふるさとの家》の空間が実感できる。ちなみに、東京ミッドタウンのガーデンでも、彼らの繊細な屋外インスタレーション《風の庭》を展開しているタイミングだった。


アレクサンドラ・コヴァレヴァ+佐藤敬による展示


アレクサンドラ・コヴァレヴァ+佐藤敬による屋外インスタレーション《風の庭》(ミッドタウン・ガーデン)


ほかの参加者にも触れたい。昨年のゴールド・メダルに輝いた佐々木慧は、今度の関西万博のプロジェクトを下敷きにリサイクル展示什器を使う。またデジタル技術によって、石や竹などの自然素材の新しい可能性を引き出す大野宏も、関西万博に参加する若手建築家のひとりである。


佐々木慧による展示


大野宏による展示


ガラージュ(小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆)は、演劇祭が行なわれる豊岡において建築と映像と舞台が絡み合い、時間と身体性に肉薄するプロジェクトを紹介していた。会場でパフォーマーが演じたり、象設計集団の《ドーモ・キニャーナ》(1992)の改修など、クセが強い建築への介入も興味深い。最若手の福留愛は、iii architectsというユニットを組んで、環境と人のふるまいを手がかりにした台湾と沖縄での生活空間を提示する。


ガラージュ(小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆)による展示


福留愛による展示


枡永絵理子は、陶芸の技術による土壁のボリュームを実家の改修に挿入すると同時に、母屋を外に拓くことを試みる。そして風景研究所(大島碧+小松大祐)は、ありえたかもしれない建築=膨大なスタディによって形を探求していたことが印象的だった。それは近年では珍しい、歴史的な建築の叡智とも接続する行為になるだろう。


枡永絵理子による展示


風景研究所(大島碧+小松大祐)による展示



Under 35 Architects exhibition 2023:https://u35.aaf.ac/index_2023.htm

2023/10/20(金)(五十嵐太郎)

金沢の建築/DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)─次のインターフェースへ

会期:2023/10/07~2024/03/17(DXP展)

金沢21世紀美術館[石川県]

2021年の若手建築家展「U35」に参加し、陶芸家でもある奈良祐希が設計した《Node》(株式会社家元 新社屋/2023)を訪れた。金沢駅から西側の問屋町に建つ、2層の住宅メーカーの社屋だが、街に開かれたシェアオフィスやセミナー用の部屋のほか、地上階では、カフェやギャラリーを併設する。


奈良祐希設計の《Node》(2023)


《Node》は今年の春に誕生した交流施設であり、パフェを目当てに人で賑わうカフェは彼の提案によって入れたプログラムだ。ギャラリーではちょうど彼の陶芸を展示していたが、今後は金沢美大と協働し、学生の作品を展示するという。交差する細い路地と緑道によって、建物のボリュームを分節しつつ、隙間にプラントハンターの西畠清順が選んだ植栽が入り、北棟と南棟の2階は渡り廊下でつなぐ。また南棟は高さを抑え、北棟に光を導く。建築のデザインとしては陶芸家らしく、大胆に土壁を導入していること、また木造ながら、オフィス内のトラスによって実現した5メートルのキャンチレバーの構造が見所だろう。金沢では、ルーバーによる縦格子を用いる現代の建築が目立つが、そうではない手法によって金沢らしさを感じさせる。


《Node》カフェスペース


《Node》2階のトラス


奈良の陶芸作品が展示されていた《Node》ギャラリー


さて、金沢21世紀美術館の若手学芸員チームが企画に参加した「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)」展は、アーティスト、科学者、デザイナー、建築家など、さまざまな角度からデジタル環境の可能性を探るものだが、ここでもU35出身(2019、20年に出品)の建築家、秋吉浩気が率いるVUILDの作品と出会った。来場者がマイクに向かって喋った言葉のイメージから、AIが椅子の3Dモデルを生成し、部屋に設置された木材加工のCNCルーターによって実際につくることができる工房である。すなわち、専門的な知識や技術がなくても、誰もがデザインができるというわけだ。


「DXP」展より、VUILDの作品。CNCルーターが設置された工房


「DXP」展より、VUILDの作品。来場者の言葉を元に生成された3Dモデルからつくられた椅子


ほかにも建築の分野からは、XR(クロス・リアリティ)の技術を用いて、館内において金沢の降水量を可視化させるコレクティブのGROUPや、廃墟写真をAIによって生き生きした空間に変容させるメルべ・アクドガン(今年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展のトルコ館にも出品したもの)が参加している。ともあれ、新しいデジタル・テクノロジーが、衣食住を含めた生活の全体に影響を与えていくことを提示する展覧会ゆえに、建築も重要な分野となっていた。


「DXP」展より、GROUPの作品



DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)─次のインターフェースへ:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1810

2023/10/14(土)(五十嵐太郎)

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オリンピック公園と郊外のリノベーション

[オーストラリア、シドニー]

2000年に開催されたシドニー・オリンピックの会場を見るために、郊外に出かけた。まず軽やかな鉄骨のアーチ天井をもつ《オリンピックパーク駅》(1998)に到着し、光が差し込む地下レベルのプラットホームから地上に上がると、目の前にオリンピック公園が広がる。土曜日ということもあり、サッカーや水泳などのスポーツ、イベント、恐竜の展覧会を楽しむ大勢の人で賑わっていた。オリンピックから20年以上経ても、十分に使われているのを見ると、市民にとってちゃんと都市のレガシーとして親しまれているのだろう。なお、ロシア構成主義風の小さい構築物が点在する風景は、パリのラ・ヴィレット公園を想起させる。ブライ・ロブが設計した《メイン・スタジアム》(1999)は、巨大なアーチによって湾曲した屋根を吊り、見る角度によって大きく形が変わるのが興味深い。オリンピックのときにあった南北に飛び出すウィング席を外すなどして、3万席を減らし、現在は8万席に改修されている。


《オリンピックパーク駅》(1998)


ブライ・ロブが設計した《メイン・スタジアム》(1999)


オリンピック公園の案内図


広大なエリアにおいて、フィリップ・コックスによる《シドニー国際水泳センター》(1994)など、各種の運動施設が点在し、コンピュータを設計に用いた有機的な造形かつカラフルなトイレのシリーズ(1999)がつくられていた。やはり、テンション構造の施設が多く、スポーツにふさわしい躍動感にあふれるが、個人的には小ぶりながら、《ホッケー・センター》(1998)のデザインが気に入った。また王立農業協会のロイヤル・イースター・ショーのために建設された《エキビジョン・センター》(1997)は、木を構造材に用いた高さ42メートルの大きなドーム空間が直方体のホール群と直結する。さらに北端では、モエレ沼公園のような緑のピラミッドがあり、豊かなランドスケープが展開していた。もっとも、さすがに広すぎて、かつてオリンピック村だった集合住宅のエリアまでは足を運ぶことができなかった。


《シドニー国際水泳センター》(1994)


ニール・ダーバックほかによる、トイレのシリーズ《オリンピック・アメニティ・ビルディング》(1999)


《ホッケー・センター》(1998)


北端のランドスケープと緑のピラミッド


一時的な祝祭であるオリンピックの施設を、その後にどう活用するかは重要な問題である。都心に戻る途中、二つのリノベーションのプロジェクトに立ち寄った。ひとつは使わなくなったサイロを集合住宅に組み込んだ《ニュータウン・サイロス》である。鉄道車両の工場をファーマーズ・マーケットや展覧会の施設に転用した《キャリッジワークス》は、コンクリートのボリュームを挿入した巨大な空間だった。


《キャリッジワークス》


2023/10/07(土)(五十嵐太郎)