2019年02月15日号
次回3月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

リー・キット展 僕らはもっと繊細だった。

会期:2018/09/16~2018/12/24

原美術館[東京都]

タイトルが示唆するように、きわめてささやかな展示である。普通に絵画や彫刻など、何かの作品がそこに置かれていることを期待して入場すると、おそらく拍子抜けするような内容かもしれない。もちろん、何もないわけではない。例えば、光や風の揺らめき、ドローイングや写真にズレながらかぶさる映像のプロジェクションなどがある。とはいえ、空間を制圧するような強い存在感をもったインスタレーションとも違う。扇風機、透明のプラスチック容器、窓辺のコップなど、使われている素材は日常的なものだ。ゆえに、図と地が反転するような仕かけである。建築を変容させつつ、その空間の魅力を改めて気づかせるようなリノベーションと言えるかもしれない。幾度かでも過去に原美術館を訪れたことがある者なら、リー・キットの展示を通じて、こんな空間だったのかと初めて気づくことも多いだろう。かくしてわずかな介入によって、空間全体が作品と化す。

杉戸洋も、あいちトリエンナーレ2013の名古屋市美術館のほか、宮城県美術館や東京都美術館の個展で、作品と空間が融合するようなリノベーション的な展示を試みた。が、リー・キットの手つきはもっと少ないし、また時間帯や天気など、日差しの状態にあわせて変容していく。さらにそこを訪れる人の存在が空間を変えてしまう。例えば、何も映しださないプロジェクターは、いわば照明のような役割も果たすが、いやおうなく横切る鑑賞者の影を壁につくりだす。それは不意に現われた亡霊のようにも見えるだろう。杉戸はカーペットなどを敷くことで空間に色を与えていたが、リー・キットは色味を帯びたプロジェクションで変化をつくりだす。また既存の窓を強く意識させたり、窓をモチーフにした映像を壁に投影するなどの試みも窓学的に興味深い。原美術館が2020年に閉館するというニュースを聞いてから訪れただけに、この建築をもう体験できないのが余計惜しく思われる。

会場の様子(1階)


会場の様子(2階)


会場の様子(2階)


会場の様子(2階)


会場の様子(1階)


会場の様子(1階)

2018/12/14(金)(五十嵐太郎)

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《星野リゾート OMO5 東京大塚》

[東京都]

2018年にオープンした《星野リゾート OMO5 東京大塚》に宿泊した。駅を背にして2分ほどの立地だが、正直、この周辺であまり用事がなかったため、大塚駅で降りたのは今世紀初めてかもしれない。和を感じさせるインテリアのデザインは、佐々木達郎が担当したらしい。部屋は上で寝るロフトになっており、注意しないと、頭をぶつけるという難点はあるものの、そのおかげでベッドに占拠されず、平面の広がりを確保している。が、最大の特徴は、むしろ外に出て、大塚の街を体験させる仕かけだろう。すなわち、エントラスの導入部にさまざまな見所や飲食店を示した街歩きの大きなマップを掲げ、さらに毎日、朝、夕、夜にガイドが数名を連れて、名所やグルメを案内するツアーが用意されているのだ。《星のや軽井沢》は豊かな自然に囲まれ、自らも広大な敷地内に独特の建築やランドスケープのデザインを展開している。が、東京の大塚では、周辺の都市環境を再発見させる手助けを行なう。星野リゾートのこうした試みは、もうひとつ旭川でも行なっている。

鍋のツアーなどはすでに一杯だったので、夕方と朝のツアーに参加した。もっとも、大塚にはいわゆる有名建築がない、ある意味では日本らしいでたらめな街並みである。興味深いのは、メディアが注目するようなきらびやかな巨大開発がないからこそ、逆に都電を含む昭和の香りが漂う商店街がかなり残っていることだ。ほかにも巨木のある神社、東京スカイツリーを線路の上から眺めることができる橋、外から練習風景を見学できるボクシングジムなども紹介された。整備された大塚駅前の広場では、夜に青空カラオケ大会が行なわれていたが、ほかの山手線の駅前では考えにくい風景だろう。またエスニックや外国人が集まるお店が意外に多いことは、個人的な発見だった。なお、大塚駅の北側では、地元の山口不動産が「ba(ビーエー)」と呼ぶ一連の小型開発を展開しており、懐かしい居酒屋風ののれん街やおしゃれなカフェなどが新しく登場し、《OMO5》もそのひとつに含まれる。

外観


ホテルのカフェ


ロフト


エントランスに掲げられた「Go-KINJO Map」


サンモール商店街


山口不動産による「ba02」


2018/12/14(月)(五十嵐太郎)

横浜美術館開館30周年記念 記念誌掲載のための座談会

会期:2018/12/04

横浜美術館[神奈川県]

横浜美術館30周年記念誌に収録するための座談会の司会をつとめた。みなとみらいのプロジェクトに関わった官と民の担当者、そして美術館の初期スタッフ、建築家サイド(丹下事務所の担当者)が、同窓会のように集まり、その始まりから現在までの経緯をたどる。筆者は、1989年の横浜博覧会のとき、初めてこの地を訪れたが、そのときすでに《横浜美術館》は完成していた。この博覧会が入ったために、2年ほど、みなとみらいの工事は中断したらしいが、考えてみると、何もなかった埋立地にまず市の公共施設として美術館がぽつんと登場したのは、興味深い経緯である。今でこそみなとみらい線も開通し、大型の商業施設「MARK IS(マークイズ)」が向かいに建ち、まわりに多くの高層ビルとタワーマンションが林立する風景となったが、逆にその後、期限付きの小学校をのぞくと、あまり公共建築は増えていない。もっとも、このエリアでは民間による3つの音楽ホールが近く誕生する予定であり、今後はライブの需要に応える重要な拠点にもなるだろう。

丹下による《横浜美術館》は、左右対称であり、海に向かう強い中心軸をもつ。これが都市デザインと一番よく連動したのは、横浜博の会場計画のときだった。が、現在は、中心の展望台が一般に開放されておらず、また「MARK IS」によって完全に遮られている。また内部の吹き抜け空間は、80年代に登場した《オルセー美術館》を想起させるだろう。この吹き抜け空間は、作品が巨大化する現代アートの展示で活用されたり、イベントなどの需要があるようだ。なお、丹下がこの仕事を依頼されたのは、80年代の中頃であり、ちょうど東京の新都庁舎のコンペを準備していた時期と重なる。したがって、いずれもモダニズム的なデザインではなく、むしろクラシックなテイストのポストモダンだった。完成するのは《横浜美術館》が先であり、当時の丹下事務所では、新しいファサードのデザインへの移行に取り組んでいたらしい。


《横浜美術館》正面(撮影=2009年)


《横浜美術館》吹き抜け空間(撮影=2005年)


《横浜美術館》背面(撮影=2010年)

2018/12/04(金)(五十嵐太郎)

ジャポニスム2018 「MANGA⇔TOKYO」/「縄文─日本における美の誕生」

「MANGA⇔TOKYO」
会期:2018/11/29〜2018/12/30
ラ・ヴィレット[パリ]

「縄文−日本における美の誕生」
会期:2018/10/17〜2018/12/08
パリ日本文化会館 [パリ]

ラヴィレット公園のホールで開催された「MANGA⇔TOKYO」展は、エントランスで、2つのミュージアムショップ(左右に設置されたリトル秋葉原と池袋をイメージしたリトル乙女ロード)の間を通ると(小店舗のオペレーションを2つに分けるのは大変だろう)、超巨大な東京の模型と各地を舞台とした大スクリーンの映像が出迎える。てっきりロッテルダムの「トータルスケープに向けて」展(建築博物館、2000〜2001)のときのように、森ビルが制作していた模型を今回も借りていると思いきや、そうではない。もっと大きい模型を新規に制作し、来場者の目を釘付けにしていた。おそらく「パリと映画」でもこうした展示は可能だろうが、「漫画と特撮」で成立するところが東京ならではだろう。その後、展示は2階に登って、都市の破壊、江戸、近現代の歴史、東京タワーと新都庁舎、日常、場所とキャラなどのテーマと続く。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2004の日本館で提示した仮説「おたく:人格=空間=都市」を全東京に広げ、森川嘉一郎節が久しぶりに全開だった。なお、12月1日には坂茂が設計した《ラ・セーヌ・ミュージカル》で初音ミクのコンサートも開催された。

ヴェネツィア・ビエンナーレでおたくを展示した2年後、日本館に藤森照信が縄文建築団を引き連れ、世界に振幅の広さを見せることになったが、パリのジャポニスム2018でもちょうど「縄文」展(パリ日本文化会館)を開催していたことは興味深い。これは東京国立博物館の「縄文─1万年の美の鼓動」展(2018)を再構成したもので、パリでは20年ぶりの縄文展になるという。最初の焼き物・容器エリアで十日町市蔵の大きな火焔式土器が出迎え、軸線の強い会場構成のもと、第二の土偶エリアでも国宝が5つ並び、最後は日用品などを紹介する(東北大の所蔵品もあった)。重要文化財も33件が出品され、レプリカを触れるコーナーも設け、コンパクトながら、縄文の魅力を十分に伝える内容だった。なお、パリとの関係で思い出される、縄文土器の美の発見者である岡本太郎については、映像で紹介していた。

ラ・ヴィレットのホール


池袋をイメージしたリトル乙女ロードのショップ


初音ミクとコンビニ


ラブライブ電車


巨大な東京の模型


パリ日本文化会館、縄文展と初音ミクの紹介


2018/12/02(日)(五十嵐太郎)

原爆をめぐる表象──「丸木位里・俊 —《原爆の図》をよむ」/ジョプノ・ドル『30世紀』/「アール・ブリュット ジャポネⅡ」

「丸木位里・俊 —《原爆の図》をよむ」
会期:2018/09/08〜2018/11/25
広島市現代美術館[広島県]

フェスティバル/トーキョー18 ジョプノ・ドル『30世紀』
会期:2018/11/03〜2018/11/04
東京芸術劇場[東京都]

「アール・ブリュット ジャポネⅡ」
会期:2018/09/08〜2019/03/10
アル・サン・ピエール美術館[パリ]

異なるジャンル、異なる場所において、原爆をめぐる表象に出会う機会が続いた。ひとつは11月25日に訪れた「丸木位里・俊ー《原爆の図》をよむ」展(広島市現代美術館)である。丸木夫妻による有名な「原爆の図」の5部作とその再制作版を横に並べながら、湾曲したカーブのある地下の大空間を使い切る迫力の展示だった。両者を比較すると、構成は同じだが、オリジナルに対し、ドラマティックな効果を加えたことがよくわかる。もちろん、「原爆の図」の展示がハイライトなのだが、この作品が生まれるまでの経緯と各地を巡回したその後の展開を紹介していたのも興味深い。すなわち、洋画家の俊と日本画家の位里が出会い、原爆という世界史的な惨事を作品化したという背景である。とくに俊が単身でロシアや南洋に渡ったアクティブな女性だったことに驚かされた。また二人が協同した作品において、彼女がはたした役割がかなり大きいように思われた。

11月4日に観劇したジョプノ・ドル「30世紀」(東京芸術劇場)は、すでに100回以上演じられているヒロシマ、ナガサキ、第五福竜丸の物語であり、同時に危険な世界とアジアの情勢を告発するものだった。近年のフェスティバル/トーキョーはアジアの作品を積極的に紹介しているが、シニカルな「リアリズム」によって、いまや日本でさえ風化している悲劇をバングラデシュの劇団が突きつける。とくに第五福竜丸の事件までとりあげているのはめずらしいだろう。また新聞紙とストールを床に敷いただけのシンプルな舞台も印象的だった。今回が日本での初演らしいが、いつか広島や長崎でも行なわれるかもしれない。そして12月2日、パリのサクレ・クール寺院の足元にあるアル・サン・ピエール美術館の「アール・ブリュット ジャポネⅡ」でも思いがけない遭遇があった。アール・ブリュットは確かにインパクトをもつが、内面の探求が強く、社会や政治との関係が稀薄なのが以前から気になっていた。しかし、本展では、広島の被爆体験をした二人(廣中正樹と辛木行夫)が、高齢になってから記憶をもとに描いた作品があり、虚をつかれた。

アル・サン・ピエール美術館、外観


アル・サン・ピエール美術館、内観


「アール・ブリュット ジャポネⅡ」展、壁全体に展開する巨大な地図のような作品


「アール・ブリュット ジャポネⅡ」展、廣中正樹の作品


「アール・ブリュット ジャポネⅡ」展、辛木行夫の作品

2018/12/02(日)(五十嵐太郎)

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