2018年11月15日号
次回12月3日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

ヤノベケンジ《サン・チャイルド》

福島市子どもの夢を育む施設こむこむ館[福島県]

ネットで炎上していたので、仙台に向かう途中、福島駅に寄って、公共施設「こむこむ」に設置されたヤノベケンジの《サン・チャイルド》を見てきた。あまりの騒動ゆえに、駅前の広場で誰でも見えてしまうような立ち方を想像すると、いささか拍子抜けするだろう。なぜなら、距離的には確かに駅の近くだったが、大きな駐車場を挟んで、かなり脇のほうに位置しており、お昼でも人通りがあまり少ない場所だからである。そもそも、筆者はもう数え切れないくらい福島駅を利用したが、こむこむという建物の存在を今回初めて知ったくらいだ。彫刻の立ち方について、正確に言うと、こむこむの敷地内というか、手前の列柱のあいだに挟まっている。つまり、あまり良い設置法ではない。したがって、たとえ正面を自動車で通り過ぎても、斜めからは見えづらく、正面を通る瞬間にだけ全貌が見える。もちろん、こむこむを使う使用者や、この前の道路を歩いて駅に行く人(あまり多くなさそうだが)は視界に入るはずだ。そして今回は、正確な場所に関係なく、福島に存在することが気に食わない人が(ネット上で?)多い。

ヤノベケンジは個人的な妄想をサブカルチャー×SF的に膨らまし、神話的な世界をつくるアーティストであり、チェルノブイリや第五福竜丸など、原子力を扱った作品を発表してきた。20世紀末は終末思想と共振するアイロニカルな表現も多かったが、311を受けた《サン・チャイルド》はかなりストレートな作品である。とはいえ、具象的な表現ゆえに、さまざまな批判を受けた。気持ち悪いという意見もあるが、キャラのデザインではなく、アートだから全員に好かれるものではないだろう。これまで筆者は、福島空港、東京、名古屋、茨木、高松などの各地で、《サン・チャイルド》が宗教なき大仏のように立つのを目撃したが(いずれも無料ゾーンだった)、問題になったことはなかった。が、今回は市長が設置を決めたことで政治化し、さらに原発をめぐるイデオロギーの闘争に巻き込まれた。これはいまや巨大な彫刻も、関係性のアートのように、地元との話し合いが必要だったことを意味する。いったん撤去が決まったが、これから対話の場が生まれることを期待したい。

ヤノベケンジ《サン・チャイルド》


こむこむの列柱の間に設置されている(左)、福島空港で展示された《サン・チャイルド》(福島現代美術ビエンナーレ2012)(右)

2018/08/21(火)(五十嵐太郎)

クロード・ニコラ・ルドゥー《アル=ケ=スナン王立製塩所》

[フランス、アル=ケ=スナン]

ブザンソンの街から鉄道でおよそ20分。駅からは数分程度。エントランスで巨大なグロッタが出迎えるアル=ケ=スナンの王立製塩所を再訪した。18世紀にクロード・ニコラ・ルドゥーが手がけたもので、半円の輪郭にそって各種の施設が並ぶが、これに想像上の接ぎ木をした円形の理想都市も提案したことでよく知られている。入ってすぐ左側にあるルドゥー博物館に、以前はこれほど大量の模型はなかったと思うので、おそらくリニューアルされて、展示デザインも洗練されている。その内容は理想都市の各施設、リング状に並べたパリの市門ほかのプロジェクトを網羅しており、彼が古典主義を言語として操作しつつ、形態の構成における新しいパラダイムに肉薄していたことがよくわかる。

なお、アル=ケ=スナンでは、バンドデシネの巨匠シュイッテンの兄弟で建築家リュックの展覧会を開催していたことも興味深い。新旧の幻想的な建築家が対峙するからだ。展示では、リュックによる数多くの幻想的な未来都市のドローイングと建築・乗物の模型を紹介していた。デザインのテイストは、有機的、植物系である。例えば、地元のブリュッセルや上海の未来における都市の変化、ルドゥーへのオマージュとして残りの半円を継ぎ足した独自のイメージなど、盛りだくさんだった。ちなみに、アル=ケ=スナン最初の訪問は、当然ネットがない時代であり、ラ・トゥーレットでパンフを発見し、近いことに気づいたのがきっかけである。そしてトーマス・クックの時刻表とにらめっこし、同日にリヨンに戻るにはどうしてもひと駅分、接続がなかったが、歩けばなんとかなると考えて決行した。誰もいない田園風景のなか、線路沿いに1時間弱歩いた思い出がある。

《アル=ケ=スナン王立製塩所》、エントランスのグロッタ(人工の洞窟)


《アル=ケ=スナン王立製塩所》


《アル=ケ=スナン王立製塩所》


円形の理想都市の模型


リュック展


リュック展


2018/08/16(木)(五十嵐太郎)

ル・コルビュジエ《ラ・トゥーレット修道院》《ロンシャンの礼拝堂》

[フランス、リヨン・ロンシャン地方]

大学院のとき以来だから、約四半世紀ぶりにラ・トゥーレットの修道院を再訪した。ル・コルビュジエの全作品を見たわけではないし、今回も宿泊エリアは立ち入ることができなかったが、改めて彼の最高傑作だと思う。真に立体的な空間構成、信じがたい複雑さ、あらゆる細部が絵になるチャーミングな造形力、光の操作、そしてプログラムの面白さ。おそらく、日本で活躍した弟子たちで、このレベルのデザインに到達した建築家はいなかった。ところで、1990年代の前半はまだデジカメもスマホもなく、カメラのシャッターを切ると、それだけお金がかかる。リバーサル・フィルムだと1枚あたり100円かかり、院生の身にとっては痛い出費なので、あらかじめアングルを考え抜いてから、枚数を抑えて撮影していた。それでも当時ひとつの建物で最高記録となったのが、ラ・トゥーレットである。ともあれ、僧坊以外はあまり繰り返しがなく、多様な場をもつ建築だ。

翌日、《ロンシャンの礼拝堂》に足を運んだ。本物が複製されたイメージよりもはるかに良い、間違いなく、これもル・コルビュジエの傑作である。もっとも、あまりに特殊解過ぎて、これで打止めというか、汎用性もないデザインだ。すなわち、真似をしても、すぐに元ネタがわかるくらい個性的なために意味がない。また興味深いのは、室内が反転された外部のような造形空間であること。そしてロンシャンの礼拝堂には、説明責任に縛られ、いまの日本建築界に失われたかたちの悦びがある。ところで、ロンシャンのビジターセンターを含む関連施設(2011)をレンゾ・ピアノが手がけていた。ルイス・カーンの《キンベル美術館》でも向き合うように、彼が新棟を担当していたが、傑作の横で邪魔はしないが、空間のクオリティを確実に維持できる建築家の枠なのかもしれない。もちろん、ロンシャンと対決して勝つのは無理だろうし、下手なデザインで失敗したら大惨事になるからだ。

《ラ・トゥーレット修道院》


《ラ・トゥーレット修道院》


《ロンシャンの礼拝堂》


《ロンシャンの礼拝堂》内観(左)、レンゾ・ピアノによるビジターセンター(右)


2018/08/15(水)(五十嵐太郎)

リヨンの近現代建築

[フランス、リヨン]

リヨンは、これまで通過のための滞在ばかりで、あまりゆっくり建築を見ることがなかった。ゆえに、トニー・ガルニエの《ラ・ムーシュ公営屠殺場》と《エドゥアール・エリオ病院》も初訪問である。いずれも長かったり、広大な施設だ。意匠的には、古典の感覚が強く残る過渡期のコンクリートの近代建築だが、《旧三井物産横浜支店倉庫》をあっさり解体した横浜と違って、よく残しており、しかもちゃんと活用していることに感心させられた。ジャン・ヌーヴェルが増改築を手がけた《オペラ座》は、今回も内部に入れなかったが、やはり赤と黒の使い方は印象的である。前面の柱列に演奏を楽しめる飲食スペースが設けられたり、側面でダンスの練習をする若者がいて、街に馴染んだというか、以前と雰囲気が変わっていた。

手前にベンチが設置された休憩できる印象的なパストゥール橋を渡ると、コープ・ヒンメルブラウによる《コンフリュアンス博物館》が建っている。両者があわせてリヨンの川辺に新しい景観を創出し、ランドマークとしての機能を見事に果たしている。特に博物館は未来的な造形(メカっぽい巨大な生き物のようだ)、ねじれたガラスの空間、ダイナミックに持ち上がる構成、建築の腹の下の水面など、休館日でも十分にデザインを楽しめる力作だ。そして新しく再開発されたエリアは、古建築を保存する歴史的な街区とは違い、クリスチャン・ポルザンパルク、ヤコブ&マクファーレンなど、アヴャンギャルドな現代建築のオンパレードである。なお、ここでも隈研吾の建築群「Hikari」(おそらく、映画を発明したリヨンのリュミエール兄弟にちなむ)が含まれており、フランスにおける隈建築の浸透度合いを感じる(その後、ブザンソンでも隈による《芸術文化センター》と遭遇した)。これに隣接するMVRDVらが設計した巨大な複合建築《モノリス》は、ど迫力の空間であり、ヨーロッパの都市建築の歴史の延長に出現した未来的な集合住宅の風景だった。

トニー・ガルニエ《ラ・ムーシュ屠殺場》


トニー・ガルニエ《エドゥアール・エリオ病院》


ジャン・ヌーヴェルが増改築を手掛けた《オペラ座》


コープ・ヒンメルブラウ《コンフリュアンス博物館》


「Hikari」


MVRDV《モノリス》


2018/08/14(火)(五十嵐太郎)

ジャポニズム2018 響きあう魂

会期:2018/07/13~2019/08/21

ルーブル美術館、ロスチャイルド館[フランス、パリ]

現在、パリでは「ジャポニスム2018 響きあう魂」と題して、日本を紹介するさまざまなアートイベントが行なわれているが、おそらくもっとも目立つのは、7月にルーブル美術館のガラスのピラミッドに設置された名和晃平の新作《Throne》だろう。地上レベルからも見える中心の高い場所に金色に輝く玉座が鎮座し、I.M.ペイによる建築空間、あるいはガラスを介して見えるまわりの古典主義の建築群と張りあう存在感を示した大作である。実際、王政のシンボルだった旧宮殿やピラミッドといった権力の歴史に触発されており、今度は人工知能が支配者として君臨する予感を表現した彫刻だという。ちなみに、名和の作品はある程度の抽象性をもっているので、《サン・チャイルド》のような炎上は起きにくいかもしれない。なお、ガラスのピラミッドにおいて、こうした空間インスタレーションを行なうのは最初ではないが(アジア人として名和は初)、半年間設置される予定だ。

その後に訪れたリヨンでも妖怪をテーマにしたジャポニスムの展示が開催されていたが、パリではもうひとつロスチャイルド館で、「深みへ─日本の美意識を求めて─」展を見ることができた。歴史建築の床を使う李禹煥や大巻伸嗣の空間インスタレーションが印象的だった。一方で伊勢神宮の模型はかなり唐突に置かれていたり、工芸の部屋があまりに明る過ぎるのには違和感をおぼえた。名和はここでもアンリアレイジとのコラボレーションを行なったほか、あいちトリエンナーレで初披露した《Foam》が地下の大空間で展示されていた。ただし、展示の方法はだいぶ変えており、真っ暗ではなく、むしろ色のある照明を使い、泡の世界に包まれるというよりは、まわりから眺めるオブジェになっていた。またおそらく泡の動きも制御しており、あいちに比べて、ほとんど動かず、静止した状態に近い彫刻だった。それにしても、新作の《Throne》と大作の《Foam》をほぼ同時期にパリで設置できるとは、名和晃平が主宰するSANDWICHの底力に感心させられる。

名和晃平《Throne》


ロスチャイルド館


「深みへ」展、李禹煥(左)、大巻伸嗣(右)


「深みへ」展、名和晃平《Foam》


2018/08/13(月)(五十嵐太郎)

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