artscapeレビュー/プレビュー
松田達のレビュー/プレビュー
Digital Tea House展
会期:2010/10/21~2010/10/26
リビングデザインセンターOZONE(7F リビングデザインギャラリー)[東京都]
東京大学とコロンビア大学による合同ワークショップにおいて製作された茶室の展示。隈研吾研究室を中心とした東大の2チームは実物と模型を展示、コロンビア大のチームはパネルと模型展示。RhinocerosやGrasshopperといった最新ソフトウェアを用いたデザインにより、デジタルファブリケーションに挑戦したことが特徴的であった。コロンビア大のパネルでは、Grasshopperによるシナプスの結合図のようなプログラムに、さらに解説を加えた図面(?)が展示されていたのは印象的だった。形の生成過程を示す、新しいタイプの図面であるともいえる。同時に、初期条件と最終形態がダイレクトに結びつき、いつでもそれらを同時に変更可能であるというパラメトリック・デザインの真意も理解できるものである。一方、東大チームの2案も、基本的に同じようなソフトウェアと手法から生まれてはいるが、パラメトリック・デザインそのものよりも、最終的に全体の建築としての完成度を重視しているように思え、個人的にはその点に共感を覚えた。すべてではないが、どうしてこういう形になったのか? という問いへの答えとして、コロンビア大チームの根拠が「初期値」に見えたのに対し、東大チームはどちらも「空間的な要請」であったように感じられた。現時点でのパラメトリック・デザインの受容の日米の違いのようにも感じられて興味深い。なお「チーム洗濯板」は壁のうねりが美しく、かつ機能的な要請にも対応できる点における展開力もあると感じられ、「チーム換気扇」は天井から漏れる光をデザインに転化していた点が面白く、また自然光の下でも空間を体験してみたいと感じられた。
2010/10/26(火)(松田達)
豊島美術館(西沢立衛)/《母型》(内藤礼)

[香川県]
竣工:2010年
内藤礼氏による《母型》というたったひとつの作品のための美術館。設計は西沢立衛氏。瀬戸内海の豊島に建てられ、瀬戸内国際芸術祭会期中の10月17日に、一般公開が始まった。延床面積2,400平米の空間を、その大きさに比して、約4.5mという非常に低い天井のコンクリートシェルが覆うため、無柱空間であることがひときわ強調される。シェルには二つの大きな穴が開けられており、全体として閉じられた内部空間はどこにもない。内藤氏の作品は、床にあけられた186の穴から地下水が断続的に湧き上がり、水滴がある一定の大きさを超えると、撥水剤を塗布され、眼に見えないくらいの微細な傾きをもった床の上を、生き物のように流れだし、時に連結し、時に分裂もしながら、複雑に動き、水たまりを構成したり、別の穴へと吸い込まれていくもの。その水の移動のスピードにも驚かされた。広大な空間に、多種多様な水の動きが同時存在し、風や光や音、温湿度の状況、そして観察者の存在によって、どんな瞬間でも、二度と同じ動き、同じ状態は現われないであろう。自然と建築とアートが、完全に一体となり切り分けることのできないような作品である。この建築自体が水滴をモチーフにしており、さらに呼応して、内藤氏が作品の一部として開口部に設置したリボンが、遠目には建築に入り込む大きな水滴を出現させているようにも見える。また、眼に見えないくらいの床の微地形の施工精度は驚くべきである。これまでのどんな建築にもなかった床であり、同時にそれは美術作品の一部ともなっている。サイト・スペシフィックな美術作品は数あれど、基本的にはその場所に特有の作品ということであり、逆にその作品がその場所の条件となっていることはない。つまりこの美術館と作品は、サイト・スペシフィックなアート作品とも同列には並べられない。建築のゆるやかな自由曲線から、同じく西沢氏が、妹島和世氏とともにSANAAとして設計した、ローザンヌ連邦工科大学ロレックス・ラーニング・センターの形状も思い浮かぶ。曲面や開けられた開口部は似ているかもしれない。しかしロレックス・ラーニング・センターが、人間のスケールにあったゆるやかな曲面から空間が構成されるのに対して、豊島美術館は、内部も外部もなく、環境と建築の区別もなく、知覚される床はフラットであるにもかかわらず、水の動きを見ているとフラットではないといったような、人間のスケールをなにか超越したような、また対立概念の数々を乗り越えるような、これまでになかった存在感を持った建築であるといえるだろう。「奇跡の建築」といって相応しいように思えた。
2010/10/23(土)(松田達)
建築新人戦2010

会期:2010/10/02~2010/10/02
建築新人戦2010は、登録者数733、応募作品454点にのぼったという。前年の応募作品数は171点だったというので、2年目にして巨大規模の大会に成長したといえよう。せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦が、4年次での卒業設計を競うのに対して、建築新人戦では、3年次までの作品により競う。実質的には2年生と3年生による戦いだといえる。今回の最大の山場は、最優秀新人賞を決める際に、意見が二つに分かれたところであろう。そこまで多少複雑な審査過程を経たが、最終的には、藤本壮介氏が小島衆太案を推し、大西麻貴氏が平山健太案を推したかたちとなった。争点は「空間があるかないか」(内部空間のある種の豊かさが表現されているかどうか)であり、平山案は「空間がない」ために押せないという藤本氏に対して、「外部空間はある」と大西氏は切り返した。会場で拍手の大きさを求めるも、明確な違いは見えなかった。最終的には、バランスのとれ、総合点で優ったかもしれない平山案より、大学が表通りにはみ出すという都市との関連を示すと同時に、印象的な空間性を提示した小島案が、最優秀となった。審査委員長の竹山聖氏は、この案を選んだことについて「せんだいの卒業設計日本一が、ピッチャーとして完成されたコントロールのあるスピードボールを投げるピッチャーを選ぶとすると、建築新人戦というのは、コントロールがなくても生きたすごい球を投げるやつを選ぶんだ」と分かりやすく表現している。実際、筆者もゲストコメンテーターとして審査の場におり、応援演説で小島案を推したのであるが、同じくゲストコメンテーターとして来ていた五十嵐太郎氏は逆に平山案を推しており、この「空間があるかないか」を建築の評価基準にすることの是非は、今後も議論していく価値のある重要なポイントではないかと感じられた。建築新人戦はすでに秋における最大の建築学生のためのイベントとなり、今後は韓国、中国の学生も交えて、アジア一を競うかもしれないという。来年以降のさらなる展開に期待と注目が集まるだろう。
2010/10/02(土)(松田達)
プレビュー:せんだいスクール・オブ・デザイン

東北大学[宮城県]
開講:2010年11月
建築デザイン系大学院生と、さまざまな領域の社会人クリエイターを対象とした新しい学校。東北大学と仙台市が連携し、地域の活性化を図る人材を養成することが目的という。具体的には、PBLスタジオ、Futureラボ、Interactiveレクチャーという三つのメソッドによって学習の機会が提供される。PBLスタジオは、少人数制のデザイン・スタジオで、東北大学の教員が中心となり、メディア、環境、社会など、複数の軸が設定され、具体的なプロジェクトに取り組む。Futureラボは、石上純也、平田晃久らが講師として招聘され、デザインの可能性を拡張するリサーチ・スタジオになるという。Interactiveラボは、領域横断的なレクチャー・シリーズで、さまざまなスタジオの受講生らが一堂に会することになるという。つまり、プロジェクトを通して多分野の人材が、コラボレートしながらデザイン教育を受ける。驚くべきことに、受講は無料。半年か一年単位の受講となり、修了すれば、大学によっては単位として認められる可能性もある。建築の領域を拡張する新しいタイプの学校として、開校と今後の展開が注目されるだろう。
URL=http://sendaischoolofdesign.jp/
2010/09/22(水)(松田達)
藤本壮介『建築が生まれるとき』

発行所:王国社
発行日:2010年8月25日
藤本壮介の、ここ10数年の文章からまとめられた著作集である。第一部は、基本的にそれぞれ作品について書かれた文章であり、第二部は、主に藤本が感動した建築や出来事について書かれている。半分作品集的であり、半分論考集的でもある本である。ところで、藤本にとって「言葉」とは何なのだろうか?本書の最後にそのことが触れられている。それは設計を行なう際の「他者」であり「対話の相手」であるという(「言葉と建築のあいだ」)。これは考えてみると意外な言葉である。なぜなら、言葉を発するのは自分であり、つまりは自分が他者だと言っているからである。ただ、ここに藤本の創作に対する姿勢が現われているように思う。藤本の建築は迷いが少ない、つまり、とてもストレートに伝えたいことが表現されているように見える。ただ、それだけでは藤本の建築が持つ微細な複雑性とでもいうべきものが、どうやって現われてきているのか説明し切れない。おそらく、それが「言葉」との対話から生み出されていると言えるのではないか。藤本は「言葉」も「建築」も分かりやすく、的確で、力強い。しかし、両者のあいだには、やはり微妙なずれがあり、そのずれをめぐって、藤本は絶えず問いを繰り返し、その整合性や関係性を問い続けている。それが、真に藤本の建築の強さになっているのではないだろうか。だから本書は、藤本の建築作品と双対をなしていると言ってよいだろう。
2010/09/20(月)(松田達)


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