artscapeレビュー

福住廉のレビュー/プレビュー

新国誠一の《具体詩》 詩と美術のあいだに

会期:2008/12/06~2009/03/22

国立国際美術館[大阪府]

視覚詩と音声詩によって抒情詩を相対化した新国誠一の回顧展。グラフィカルに配置した漢字を並べたり、新国本人が朗読した平仮名と片仮名と数字を混在させた詩を聞かせたり、小規模ながらも、新国のユニークな創作活動を一望する堅実な展示になっている。美術と詩、あるいは音楽の領域を横断する前衛芸術にはちがいないが、日本語という誰もが知る言語を素材にしているせいか、鑑賞者をサディスティックにいたぶるような前衛芸術のたちの悪さは微塵も見られない。むしろ、それらの大半は端的におもしろいし、笑えるものであり、もっと見たいと思わせるものばかりだ。おびただしい数の「畳」という漢字を四畳半のかたちに並べ立て、その中心に「炉」の漢字をひとつだけ置いたり、「縞」という漢字を縦方向に無数に並べることによって、その文字と行間のあいだの縞模様を表現したり、意味伝達の手段だけに貶められる文字をその機能から解放するというより、その機能を満たしつつ、文字という具体的な物質の力を前面化させる、その手腕がとてつもなくすばらしい。この展観によって新国の創作活動が再評価されることはまちがいないだろうが、それを前衛詩の現在に生産的に反映させるだけではあまりにももったいない。というのも、新国が夢中になっていた文字的想像力は、部分的ではあるにせよ、たとえば現在のアスキーアートや「脳内メーカー」、あるいは「『タモリ』と『夕刊』は似ている」と鋭く指摘したことがあるトリオフォーによる「NOPPIN新聞」にも共有されているからだ。新国誠一を起源にすえることによって、「物質としての文字」の魅力をアピールする、広い意味でのアート活動が、今後ますます発展することが期待できるのではないだろうか。

2009/03/20(金)(福住廉)

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インシデンタル・アフェアーズ うつろいゆく日常性の美学

会期:2009/03/07~2009/05/10

サントリーミュージアム[天保山][大阪府]

「わかるようでわからない」という、美術館の企画展にありがちなタイトルはともかく、国内外の17人による作品を集めた展示は、それなりに見応えがある。ティルマンスやペイトンといった有名作家から宮島達男、東恩納裕一といったベテラン、佐伯祥江や田中功起、さわひらきといった中堅、榊原澄人や横井七菜といった若手まで、出品作家のバランスもよい。なかでも増殖しながら離合集散を繰り返す群衆を描き出したミシェル・ロブナーの映像作品と、紙でつくったフェイクの対象をリアルに撮影したトーマス・デマンドの写真作品は、一見の価値あり。

2009/03/20(金)(福住廉)

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椿昇2004-2009:GOLD/WHITE/BLACK

会期:2009/02/17~2009/03/29

京都国立近代美術館[京都府]

美術家・椿昇の個展。会場に一歩足を踏み入れると、キャプションも解説も一切設けない、椿の「オレ様ワールド」が全開になっていて、ちょっとひく。「鑑賞前に通読されることをお奨めします」となにやら忠告めいた断り書きがつけられたパンフレットのテキストも、いかにも現代思想にガツンと打ちのめされた大学院生が書いたような理屈っぽい文章で、暗い展示室内では最後まで通読することもままならない。結果として、印象に残ったのは牛の首を切断する映像作品だけで、これも血の海のなかで死んでゆく牛の眼球を執拗にクローズアップでとらえているせいか、安手のヒューマニズムを喚起することはあっても、これではたして「ラディカル・ダイアローグ」が可能となるのかどうか、疑わしい。美術館のロビーに設置されたロケットのような巨大な風船模型も、いまや伝説と化している横浜のホテルにはりついたバッタには到底およばない代物で、せめて海風にあおられるバッタほどの滑稽な勇姿を見せてもらいたかったものだ。

2009/03/20(金)(福住廉)

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八田淳 展

会期:2009/03/09~2009/03/28

東邦画廊[東京都]

美術家・八田淳の個展。いくつもの紙を並べて展示することによって、下鴨神社のパノラマティックな光景を描いた作品が圧巻。太い鉛筆で一気に描いていくスピード感とダイナミックな運動性が、狭い壁面に広がりと奥行き感をもたらしていた。

2009/03/18(水)(福住廉)

畑正憲 展──ムツゴロウ世界をまわる──

会期:2009/03/16~2009/03/28

ギャラリーGK[東京都]

ムツゴロウこと、畑正憲の個展。いわずもがな動物の絵だが、数々の動物を熟知したムツゴロウならではの描写かと思いきや、意外と凡庸な絵であることにびっくりした。

2009/03/17(火)(福住廉)