artscapeレビュー

福住廉のレビュー/プレビュー

第12回文化庁メディア芸術祭

会期:2009/02/04~2009/02/15

国立新美術館[東京都]

毎年恒例のメディア芸術祭。昨年に比べて会場がコンパクトになっていたものの、例年どおりテクノロジー系のメディア・アートが幅を利かせていた。そうしたなか、ひときわ際立っていたのが、Mark FORMANEKの《Standard Time》という映像作品。木材を組み合わせて巨大なデジタルカウンターをつくり、時間の進行にあわせて、その数字を人力で組み替えていく様子を映し出すもの。原則的に一分以内に作業を完了させているけれど、たとえば「6」から「7」への作業はかなりハードで、その必死さが笑える。重労働を捨て去りながら身体感覚を限りなく延長させていくハイ・テクノロジー全盛の時代にあって、もう一度私たちの感覚を身体労働にシフトダウンさせる、傑作だ。

2009/02/13(金)(福住廉)

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黒田オサム Performance77

会期:2009/02/11

テルプシコール[東京都]

ホイト芸パフォーマーとして知られる黒田オサムの公演。絵描きとしての黒田オサムの誕生秘話を物語る紙芝居から、乞食芸のパフォーマンス、黒田自身による革命演説歌の唱和など、盛りだくさんの内容で、楽しめた。来場者に配布されたパンフレットに収録された、黒田オサムロングインタビューもたいへん貴重な資料。上野の山の乞食や男娼の暮らしぶりから、敗戦後に群馬で立ち上げた「ホワイトグループ」についての証言、アナキズムの歴史的展開にいたるまで、とうとうと語るその語り口にひきこまれる。たとえば、こんな具合。「おたまじゃくしが読めなくてもね、おたまじゃくしが語りだしてね。おたまじゃくし以前に、音はあったわけですからねぇ(笑)」。

2009/02/11(水)(福住廉)

大ガラパゴス展

会期:2009/02/06~2009/02/08

東京藝術大学千住キャンパス[東京都]

東京藝大音楽環境創造科の卒業・修了制作展。キャンバス内の教室や体育館を使って作品を発表したり、論文の要旨を公開していたが、昨年に比べると全体的に完成度が粗いといわざるを得ない。せっかく、外部の人に作品が見せられる機会だというのに、準備が間に合っていなかったり、解説文の日本語が不明瞭なため作品の鑑賞方法が分かりにくくなっていたり、詰めの甘さが目立ってしょうがない。どうやらホームで開催することの利点が裏目に出たようだが、「作品を見せる」ことに全力を注がない限り、アウェーで勝負することは到底かなわない。

2009/02/08(日)(福住廉)

赤塚不二夫のコニャニャチハ展

会期:2009/01/17~2009/02/22

杉並アニメーションミュージアム[東京都]

故・赤塚不二夫の回顧展。小規模な展示とはいえ、直筆原稿、パネルによる年表、スナップ写真、「天才バカボン」のアニメ版など堅実な構成でその偉業を振り返っていた。なかでも、石丿森章太郎のアシスタントを勤めていたトキワ荘時代に描いたマンガ原稿を、誰がどこを描いたのかを解説しながら展示するなど、工夫が凝らされていた。

2009/02/08(日)(福住廉)

風間サチコ 昭和残像伝

会期:2009/02/04~2009/03/14

無人島プロダクション[東京都]

版画家・風間サチコの新作展。炭鉱をモチーフにした版画作品やオブジェなどを発表した。「巣鴨プリズン」を取り扱った前回の個展に比べると、若干想像力が大人しくなっているのは否めないが、それは炭鉱の残像を追い求めて過去を掘削していくなかで硬い岩盤に突き当たったということなのかもしれない。もはや山本作兵衛のような作品が望めない今、必要なのはこの岩盤のありかを共有し、なんとかしてそこを突き抜けていく身ぶりを獲得することだろう。

2009/02/08(日)(福住廉)