artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:メガメガキラキラ 日常組 西村正徳展

会期:2017/07/01~2017/08/31

三田市総合文化センター 郷の音ホール[兵庫県]

山上から下界に向かって大声で叫ぶことができる巨大メガホン(音量測定器付き)や、無数の穴から光が漏れる巨大な児童用傘といった、観客参加型の大型彫刻作品などで知られる西村正徳。兵庫県三田市にアトリエを構える彼が、地元のホールの10周年を記念して大規模個展を行なう。彼は金属を用いた作品も制作しているが、老若男女を問わず人気を博すのは、やはり観客参加型の作品だろう。それらはテントシートを素材とするソフトスカルプチャーで、アートの知識を持たない人でも気軽に参加でき、素直に驚きや感動の声を上げられる。アートフェスや画廊ではなく、より幅広い層の人々が集う公共ホールで、彼の作品がどのような反響を巻き起こすのか。いまから楽しみだ。

2017/06/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:拡がる彫刻 熱き男たちによるドローイング 植松奎二 JUN TAMBA 榎忠

会期:2017/07/04~2017/09/28

BBプラザ美術館[兵庫県]

植松奎二(1947~)、JUN TAMBA(1952~)、榎忠(1944~)が1カ月ごとに個展を行なう。ベテランたちの競演はそれだけで十分そそられるが、本展のキモは別のところにある。彫刻とドローイングの概念を拡張することだ。一般的に彫刻は立体、ドローイングは平面だが、空間を支持体と考えれば彫刻をドローイングと解釈でき、ドローイングも彫刻足り得る可能性があるのではないか。そのような野心的試みを、経験豊富な3作家の手で実現しようというのだ。神戸の小さな美術館から新たな空間概念が提唱されるかもしれない。ちょっと大げさかもしれないが、それだけの期待をかけるに値する展覧会だ。なお本展は関連イベントも充実しており、植松奎二による1978年のパフォーマンスの再現、JUN TAMBAが2003年に制作した巨大ドローイング(22m×19m)の再公開、榎忠の祝砲パフォーマンスなどが会期中に行なわれる。

2017/06/20(火)(小吹隆文)

Houxo Que「SHINE」

会期:2017/06/10~2017/06/25

ARTZONE[京都府]

Houxo Que(ホウコウ・キュウ)は東京を拠点に活動するアーティスト。グラフィティ・ライター、ライブ・ペインターとして活動を開始し、現代美術へと活動領域を広げてきた。本展は彼にとって関西初の個展である。作品は液晶ディスプレイの画面にペイントを施したシリーズ《16,777,216view》と、蛍光塗料とブラックライトを用いて現地制作した壁画《day and night》である。筆者の関心を捉えたのは前者だ。この作品は絵具自体の色彩はもちろん、液晶ディスプレイが色を変化させながら激しく明滅し、空間自体も照明がともった状態、落ちた状態、ブラックライトをともした状態と変化する。光がテーマなのは明らかだが、その光とは天然の陽光ではなく、街灯、デジタルサイネージ、パソコン、携帯電話など、われわれの日常を取り巻く人工の光なのである。絵画作品には描かれた時代の風景、風俗、価値観、そして光の捉え方が反映されている。ホウコォキュウの作品を見て、21世紀日本のリアルを感じたのは、私だけではあるまい。

2017/06/16(金)(小吹隆文)

舟越桂新作版画展 2017

会期:2017/06/10~2017/07/02

ギャラリー白川[京都府]

舟越桂が彫刻とともに制作し続けているのが銅版画である。彼は1989年にアメリカの版元から依頼を受けたのを機に版画制作を始め、以後3、4年ごとに新作を発表している。本展の会場であるギャラリー白川は、1989年から今日までの舟越版画をフォローしており、ファンのあいだでは定評のある画廊だ。本展ではメゾチントの新作6点と画廊コレクションを合わせた22点が展示された。舟越がメゾチントを手掛けるようになったのは前回の個展(2015)からだ。彼はメゾチントの彫りの感覚が木彫に近いと考えており、今後もこの技法で制作を続ける可能性が高い。それよりも本展で気になったのは、新作のなかにスフィンクスがいなかったことだ。長年にわたり舟越作品の主要なモチーフだったスフィンクスが描かれなかったのは、偶然なのか確信犯なのか。後者だとしたら、今後の彼の展開が楽しみだ。

2017/06/16(金)(小吹隆文)

柴田敏雄「Bridge」

会期:2017/06/09~2017/07/10

Yoshiaki Inoue Gallery[大阪府]

山中のダムや斜面を削った法面など、自然と人工物が共存する風景を捉えた緻密な写真作品で知られる柴田敏雄。本展は、彼がベルギーの建築家ローラン・ネイから「自分が設計した橋を撮影してほしい」と依頼を受けて制作したカラー写真のシリーズを、関西で初めて紹介するものだ。彼の通常の作品とは若干テーマが異なるのかもしれないが、幾何学的な構図で橋の美と機能性を表現しており、見応えのある展覧会だった。撮影はキヤノンのデジタルカメラを用い、プリントも同社の大判プリントということで、技術的にも新たな挑戦だったようだ。作品のサイズは、写真としてはかなり大きな部類だが、解像度はまだまだ余裕があるのではないか。グルスキー並みの巨大サイズに引き延ばしたらどう見えるのだろうかと、勝手に妄想を膨らませてしまった。また別室ではモノクロの旧作も展示されており、新旧の作品を対比できるのも嬉しかった。

2017/06/12(月)(小吹隆文)