artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

泉茂 ハンサムな絵のつくりかた

会期:2017/01/27~2017/03/26

和歌山県立近代美術館[和歌山県]

戦後の関西美術界を代表する作家の一人、泉茂(1922~1995)の画業を、約170点の作品と関連資料で回顧した。泉は、瑛久らとデモクラート美術家協会を結成した1950年代は抒情的な版画作品を制作していたが、1959年から68年の滞米・滞仏時代に線をテーマにした作風へと移行、帰国後の1970年代にはより抽象度を高めた「点と線のシリーズ」、70年代末から80年代にかけてはひしゃげた金属板のようなモチーフを描いた絵画へと移行し、晩年は雲形定規を用いたカラフルな作風に至った。彼は意識的に自らの制作法を転換した。初期と晩年の作品を見比べるとまったく別人のようだが、本展を見るとそれらが一本の線として繋がり、人生を見据えて一貫性のあるキャリアを形成してきたことがよく分かる。そういう意味で本展のサブタイトル「ハンサムな絵のつくりかた」は、じつに的を射た文言だと思う。なお、本展に合わせて、大阪のYoshimi Artsとthe three konohanaでも泉の個展が同時開催された。美術館とは異なる空間で、より密接に作品と接することができ、こちらもまた有意義な機会であった。

2017/03/08(水)(小吹隆文)

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INTERACTION OF COLOR 色の相互作用

会期:2017/02/25~2017/03/18

ギャラリーヤマグチクンストバウ[大阪府]

ジョセフ・アルバースがアメリカのブラック・マウンテン・カレッジで行なった講義にもとづき、彼と学生たちが共同制作したシルクスクリーン80点付きの装丁本『INTERACTION OF COLOR』(1963)。同作を展示室の中心に配し、周囲の壁面に、アルバース、アレキサンダー・カルダー、桑山忠明、堀尾昭子、沢居曜子、日下部一司など17作家の作品が並んだ。会場のギャラリーヤマグチクンストバウはミニマルアートで定評のある画廊だが、本展の作品も同系あるいはコンセプチュアルな作品で統一されており、空間全体が美しい調和を奏でていた。まさかここまで充実した内容とは思っていなかったので、不意を突かれたのかもしれないが、その場にいるだけで幸福な気分に満たされる。こんな体験は滅多にできないだろう。

2017/03/07(火)(小吹隆文)

白石ちえこ写真展「島影 SHIMAKAGE」

会期:2017/03/07~2017/03/19

ギャラリー・ソラリス[大阪府]

日常にある“記憶の原風景”をテーマに制作を続けている写真家、白石ちえこ。本展は彼女が2015年に発表した写真集『島影』から選抜したもので、日本各地の風景をモチーフにした銀塩モノクロプリントである。本作の最大の特徴は「雑巾がけ」という古典技法を用いていることだ。この技法はピクトリアリズム(絵画主義)が盛んだった1920~30年代に日本で開発されたもので、プリントした印画紙にオイルを引き、油絵具を塗るなどして、それらをふき取りながら画面の調子を整える。白石の作品は、風景、建築、遊具、動植物などを捉えているが、一様に暗めのトーンを取っている。それでいて対象の輪郭はつぶれておらず、昼なのか夜なのか、最近なのか一昔前なのか、区別がつかないのだ。観客はその迷宮のような世界で、日常のくびきから解かれた浮遊感を味わうのだ。このような特殊技法の作品は、やはり実物を見るのに限る。その機会を与えてくれた作家と画廊に感謝したい。

2017/03/07(火)(小吹隆文)

1980年代再考のためのアーカイバル・プラクティス

会期:2017/02/18~2017/03/05

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

京都市立芸術大学が所蔵する卒業生の作品から、1980年代のものを選び、当時の印刷物を交えて当時の動向を振り返った。出展作家は、石原友明、上野政彦、長尾浩幸、片野まん、栗本夏樹、砥綿正之など20名である。1980年代の関西は続々と有望な新人が現われ、「関西ニューウェーブ」と呼ばれる活況を呈した。約30年の時を経て、当時を振り返ることは有意義だと思う。ただ、印刷物が貧弱だったのは残念だった。今後の充実が望まれる。本来ならこの手の企画は地元の美術館が担うべきものだ。しかし、景気が冷え込んで美術館の予算が激減した1990年代後半以降、関西では同時代の地元の活動をフォローする企画がやせ細ってしまった。このままだと後世に過去30年間の動向を伝えられないのではなかろうか。京都ではギャラリー16も過去に同画廊で行なわれた個展を再現する企画展を断続的に行なっているが、一大学、一画廊の孤軍奮闘には限界がある。関西、特に京阪神の美術館の奮起を期待している。

2017/02/24(金)(小吹隆文)

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佐伯慎亮個展「リバーサイド」

会期:2017/02/18~2017/02/26

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

関西を拠点に活動する気鋭の若手写真家が、今年1月に刊行した写真集『リバーサイド』の収録作品を中心とした個展を開催した。展示は2つの部屋で構成されている。入口を入ってすぐの広い部屋には、パネル貼りした大小の写真作品が、ランダムながらも一定の秩序を持って並び、室内中央には天井から吊った立方体(6面のうち4面に作品が貼ってある)がゆっくり回転している。一方、奥の小部屋は、ソファー、センターテーブル、スタンドライト、カーペットが配され、壁面は雑貨や佐伯の子どもたちが描いた絵、工作物などで埋め尽くされていた。また、センターテーブルには佐伯がこれまでに発行した写真集が置いてあった。インスタレーション兼ビューイングルームといったところか。つまりこの2室は、写真家と家庭人、あるいは作品とその苗床としてのプライベートを対比的に示していたのだ。さて肝心の作品だが、いずれも家族や自然を瑞々しく捉えたもので、生命や日々の生活を愛おしむ視点が貫かれていた。また会場で交わした会話のなかで、佐伯の実家が寺であり、彼自身も僧侶の勉強をしたことがあると聞き、彼の作品のベースに仏教的死生観があることも実感した。

2017/02/21(火)(小吹隆文)