2018年06月15日号
次回7月2日更新予定

artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

石塚まこ「ちいさな世界を辿ってみると」

会期:2017/09/30~2017/10/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)[兵庫県]

神戸出身のアーティスト石塚まこが、地元のアートセンターでの滞在制作を経て個展を開催した。彼女は長らく海外を拠点に活動を続けており、絵画や彫刻といったオーソドックスな作品を制作するのではなく、滞在先で出会った人々や文化との交流を経て生じる感興や関係性を、さまざまなかたちで作品化している。その際に「食」をコミュニケーションの手段にすることも多く、本展では食にまつわるメモをびっしりと記したノートや、朝食を食べ終えたあとに残った野菜や果物の皮から着想した写真作品とそのバリエーションなどが展示された。彼女の作品はカテゴライズが難しく、正直これがアートなのかと思ったりもする。展覧会よりも本人と直接コミュニケートしたほうがずっと魅力が感じられるのではないか。しかし、こうした感想を抱くのは、こちらが常識に凝り固まっているせいかもしれない。今後も作品を見続ければ、彼女への評価が変化する可能性がある。関西のギャラリーやアートスペースがその機会を設けてくれるよう期待している。

2017/10/21(土)(小吹隆文)

柴田知佳子展

会期:2017/10/16~2017/10/28

ギャラリー白kuro[大阪府]

ギャラリー白には、画廊にしては珍しいブラック・キューブの空間がある。ここでは立体の展示が多いが、柴田知佳子は絵画でもこの空間を生かせることを証明した。展示作品は1点のみ。天地2m×左右6mの大作で、壁の長さより大きいため空間を斜めに横切るように展示された。作品は主に深い青(群青とも紫とも)と黒を用いた抽象画で、ほかにも複数の色彩が用いられている。特に金の使用は効果的だった。ストロークは縦方向が基調で、そのスピードや調子、太さが自在にコントロールされながら左右に広がっていく。筆者は横長の絵画を見る時に右から左へと見る癖があるのだが(絵巻物や書籍の影響)、作品を舐めるように見つめていくと次々に移り変わる画面に魅了され、陶酔的な気分を味わった。作品が大きいため一度に全体を把握するのは不可能で、何度も作品の前を動き回ることになるのだが、どれだけ見ても視覚的快楽は尽きない。じつに深い絵画体験だった。あえてひとつ不満を述べると、作品の一部がどうしても部屋に入り切らず別の壁に展示されていた。作品全体を見てほしいという作家の意向は分かるが、この会場では不要だったと思う。

2017/10/17(火)(小吹隆文)

テクマク写真展 インストゥルメンタル[instrumental]

会期:2017/10/11~2017/10/15

ギャラリー・アビィ[大阪府]

テクマクは女性写真家で、個展はすべてギャラリー・アビィで行なっている。彼女の作品は繊細さに溢れたもので、日常の些細な一瞬を柔らかな、やや浅めのトーンで捉えるのが特徴だ。そして小さな幸福感が見る者をじんわりと包み込む。本展でもそうした彼女の特質を生かした作品が見られたが、同時にこれまでとは異なる点も感じられた。それは作品の抽象度である。本展の作品はすべて、水、雲、空をモチーフにしたもので、表現の核心には「光」への関心がある。それを抽象的に、しかし鋭角的にではなく、日常生活と地続きの視点でふんわりと着地させたところに作家としての成熟を感じた。本展をもって作風が変化したということはなく、今後も彼女はこれまで通りの作品を撮り続けるだろう。しかし、やろうと思えばいつでも別の顔を見せられる。そのポテンシャルがうかがえたことが本展の収穫である。

2017/10/13(金)(小吹隆文)

air scape / location hunting 2017 ヤマガミユキヒロ

会期:2017/10/10~2017/11/05

Gallery PARC[京都府]

カテゴリー:美術
京都市中京区の御幸町通三条にあったGallery PARCが、そこから南西へ10数分の距離にある室町通六角へ移転。活動再開の第1弾としてヤマガミユキヒロの個展を行なった。ヤマガミは「キャンバス・プロジェクション」という独自の作品で知られるアーティストだ。同作は、まず綿密なロケハンで選んだ場所を写真撮影し、その情景を丹念に描写した鉛筆画を制作、次に同じ場所で映像を定点撮影し(撮影時間は、短時間、一昼夜、春夏秋冬などさまざま)、その映像を鉛筆画の上に重ねて投影するというものだ。絵画と映像の要素を併せ持ち、そのどちらとも異なる空間性や時間性を表現し得る手法として評価を確立している。本展は新作展ではなく、これまでのヤマガミの代表作を複数の展示室に配置するプチ回顧展の趣となった。彼の作品を知らない人にとって絶好の機会となっただろう。一方、見慣れた人にとっての注目ポイントは映像技術の向上だ。2点の大作が1点ずつ映像を投影しているのに対し、小品群はひとつの壁面あたり10数点の映像を1台のプロジェクターで投影していた。しかも作品は横一列ではなく二段掛け、三段掛けである。大がかりなシステムを用いずに正確な映像制御が行なわれていたことに驚かされた。映像技術が向上すれば、ヤマガミの表現はさらに多彩になるだろう。次に行なわれる新作展がいまから楽しみだ。

2017/10/10(火)(小吹隆文)

児玉幸子展覧会「眩惑について」

会期:2017/10/06~2017/11/26

清課堂[京都府]

児玉幸子は「磁性流体」という液体金属の一種を用いて美術作品を制作するアーティストだ。「液体金属」と聞くと映画「ターミネーター2」の悪役アンドロイドを思い出すが、当然ながら彼女の作品とは無関係だ。磁性流体は磁力をかけると変形する性質をもつ。児玉はさまざまな形の容器に磁性流体を流し込み、磁力をコンピュータで制御することで、生き物のように変形する作品をつくり出す。その形態は、トゲの集合体やぬるっとした流線型などさまざま。プログラムは一定時間ごとに繰り返されるが、磁性流体の反応はその都度微妙に異なり、同じ形を繰り返さないのでなかなか見飽きない。作品によってはヒーリング効果も期待できそうだ。本展では伝統的な京町家の蔵と和室で展示が行なわれたが、とりわけ見事だったのは床の間の展示。幽玄な雰囲気を醸し出しており、インスタレーションとしても見応えがあった。

2017/10/10(火)(小吹隆文)

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