2018年04月15日号
次回5月15日更新予定

artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

北辻良央「全版画Ⅰ〈1976~1988〉」

会期:2017/10/07~2017/10/28

+Y GALLERY[大阪府]

1970年代から関西を拠点に発表を続けている北辻良央。彼の全版画作品を、今年10月から来年4月に3期に分けて紹介する展覧会が始まった。第1期の今回は1976年から1988年の作品が紹介されている。筆者にとって北辻作品と言えば、1970年代のコンセプチュアルな作品──地図をトレーシングペーパーに忠実に写し取るなど、記憶や反復をテーマにしたもの──や、1980年代以降の物語性が濃厚なオブジェや作品が連想される。しかし1970年代後半の版画作品は一度も見たことがなく、それらへの興味が画廊へと足を向かわせた。では1970年代後半の版画作品とはいかなるものか。それは、ゴッホやゴーギャンなど著名画家の肖像画や、セザンヌの《カルタ遊びをする人々》の模写である。しかし単なる模写ではない。例えばゴッホの肖像画では、画家の自画像を見ながら部分部分を銅板にエッチングし、原画とは逆向きになったイメージを見ながら、今度は部分を統合した肖像画を銅板にエッチングする(原画と同じ向きになる)。そして2点のプリントを並べて展示するのだ。この複雑なプロセスは1970年代前半のコンセプチュアルな作品を想起させ、具象画の引用は1980年代の物語性豊かな作品へとつながる。つまり北辻作品の時代ごとの変遷と接点が明らかになるのだ。今年12月から来年1月にかけて行なわれる第2期では1992~95年の作品が、来年4月の第3期では1999~2018年の作品が取り上げられる予定。そこでもまた新たな発見があるに違いない。ロングスパンの展覧会となるが、今後も欠かさずに出かけて全版画作品を見届けたい。

2017/10/10(火)(小吹隆文)

アメリカへ渡った二人 国吉康雄と石垣栄太郎

会期:2017/10/07~2017/12/24

和歌山県立近代美術館[和歌山県]

カテゴリー:美術
20世紀初頭に移民としてアメリカに渡り、同地で画家として活躍した国吉康雄と石垣栄太郎。2人の作風は対照的で、国吉がアンニュイな雰囲気のなかにメッセージを偲ばせるのに対し、石垣は社会問題や政治的な主張を直接画面にぶつけた。両者はキャリアも対照的で、国吉がアメリカを代表する画家としてホイットニー美術館で回顧展を行ない、ヴェネツィア・ビエンナーレのアメリカ代表に選ばれたのに対し、石垣は戦後のマッカーシズム(赤狩り)で米国を追われ、日本で余生を過ごした。ただし国吉も、1950年代の抽象表現主義の流行と共に忘れられた存在となり、米国では近年やっと再評価の気運が高まっている。また国吉は米国で亡くなったが、最後まで市民権を得ることができなかった。本展では作品110数点と資料約50点で2人の画業を展観。黄禍論による日本人移民の排斥、戦争、大恐慌、戦後の赤狩りなど、激動の時代を生きたアーティストの姿を丹念に紹介している。折しもいま、欧米では移民やテロが大きな問題となっており、日本にも戦争の影が忍び寄っている。国吉と石垣の生き様は、われわれにとっても他人事ではないのだ。また、米国での国吉の再評価は、純粋に美的価値だけでなく、美術界からトランプ政権へのカウンター的意味合いがあると聞いた。彼は故人になっても政治に翻弄されているのだなと、暗澹たる気持ちになった。

2017/10/06(金)(小吹隆文)

大英博物館国際共同プロジェクト 北斎─富士を超えて─

会期:2017/10/06~2017/11/19

あべのハルカス美術館[大阪府]

カテゴリー:美術
本展は葛飾北斎の晩年30年に的を絞った企画展で、あべのハルカス美術館と大英博物館の共同プロジェクトである。先に行なわれた英国展は、同国では70年ぶりの北斎展ということもあり、約15万人を動員するヒットとなった。北斎の展覧会は関西でもしばしば行なわれているが、本展は約200件の作品のうち肉筆画が66件を占めており(海外の美術館の所蔵品を多数含む)、これまでの北斎展と比べても出色の出来栄えである。見所はやはり肉筆画で、特に展覧会末尾に並ぶ《富士越龍図》《李白観瀑図》《雪中虎図》など最晩年の作品は孤高の境地に達し、凄みすら感じられた。また、信州・小布施で描いた作品で、北斎が波の表現の極致とも言われる《濤図》、晩年の北斎を支えた三女・お栄(応為)の作品、浮世絵の原画の校正であろうか、描き直しや朱が入った作品などもあり、非常に見応えがあった。この秋、関西では「国宝」展(京都国立博物館)や「大エルミタージュ美術館展」(兵庫県立美術館)など話題の展覧会が相次いでいるが、本展はけっしてそれらに負けていない。むしろ深みやコクが感じられる点で、それらに勝っていると言えるだろう。

2017/10/05(木)(小吹隆文)

藤飯千尋展「轍の行く先」

会期:2017/09/30~2017/10/05

ギャラリー島田[兵庫県]

青、赤、白、黒、黄などの色彩が奔流のように渦を巻く藤飯千尋の作品。しかし、驚くほどダイナミックな画面にはストロークの気配がない。本人に訊ねたところ、やはりと言うべきか、ゆるく溶いた絵具を床置きの画面に流しかけているらしい。それ上の詳細は教えてもらえなかったが、絵具の粘度やキャンバスの置き方(高低差の利用)などの自然現象を味方につけているのは間違いない。同様の手法で描く画家はけっして珍しくないが、彼女の作品が放つ臨場感はほかより一頭抜きん出ているように感じられた。出品作のうち大作は1点だけだったが、彼女は一人で制作しているので、作品のサイズには限界があるのかもしれない。しかし、この画風は大作と馴染みが良いはずだ。150号や200号のキャンバスを何枚もつなげるぐらいの超大作を披露してくれたら嬉しいのだけど。

2017/10/01(日)(小吹隆文)

Expect The Unexpected 田中真吾

会期:2017/09/01~2017/09/30

eN arts[京都府]

田中真吾は炎を駆使した作品で知られる作家だ。これまでに、紙、木の角材や板、ビニール袋などを燃やして、その痕跡を造形化した作品を発表してきた。本展では薄い鉄板をバーナーで焼く行為を繰り返し、熱の影響で不規則に歪んだ表情を見せる平面作品や、ビニール袋をバーナーで溶かして積み上げた立体作品、バーナーで溶かしたビニール袋を鉄板に溶着させた平面作品を発表した。それらの作品が持つ起伏に富んだ表情は、炎あるいは燃焼という自然現象がもたらしたものだ。そこには作家がコントロールしている部分と人智を超えた部分が混在しており、田中はその絶妙な配合を探りながら、綱渡りのようなバランスで表現を物にしていく。筆者は彼の個展をほぼ皆勤賞で見ており、作品を見慣れているつもりだが、それでも毎回予想を超えて来るのは大したものだと思う。

2017/09/23(土)(小吹隆文)

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