小吹隆文:著者で見る|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
次回9月3日更新予定

artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

酒井稚恵展─金魚のふん─

会期:2017/07/22~2017/08/05

GALLERY GALLERY[京都府]

既製品の衣服や布地に手縫いを施して、もとの姿とはまったく違うオブジェをつくり出す酒井稚恵。本展でも赤いワンピースに黄色い糸を手縫いした有機的な形態のオブジェ《金魚のふん》を発表。それらを環状に並べて宙吊りにするインスタレーション行なった。また別室では、衣服のタグや、陳列時に貼られるシール、襟の補強材、包装材などを用いた小品も展示されていた。本展の作品は、彼女が2015年から始めた「ファストファッションシリーズ」の一環であり、素材はすべてファストファッションブランドの衣服を使用している。美しい作品の背景には、利潤追求のために必要以上の生産と廃棄が行なわれ、品質が後手に回り、労働力を買い叩く現場の姿が潜んでいる。酒井はその事実を声高に叫んでいるわけではない。しかし、作品の素材やアイデアを知った者は、現代社会のありように思いを馳せざるを得ないだろう。

2017/07/29(土)(小吹隆文)

安永正臣展-Art Needs Genuine Criticism-

会期:2017/07/29~2017/08/20

ギャラリー器館[京都府]

やきものは土を成形して窯で焼くものだが、安永は土を使わずにやきものをつくっている。彼が使用するのは釉薬だ。釉薬はやきものの表面を覆うガラス質の部分で、普通は液状の釉薬を素焼した器の表面にかけ流して使用する。ところが安永は、粘度を高めた釉薬で器をつくり、砂やシャモット(耐火粘土を焼いて粉末にしたもの)の中に埋めて焼いているのだ。結果、出来上がった作品は、ガラス状の光沢を帯びたもの、火山岩や石を思わせるもの、出土品のような風化を感じさせるものなど、千差万別の表情を見せる。安永の作品は、窯内でのちょっとした条件の違いで大きく表情が変化し、作家本人ですらコントロールが難しい。それだけに人智を超えた風合いが生まれることもあり、その一期一会的なあり方も作品の魅力となっている。道具とオブジェの両面を兼ね備えた陶芸作品は数多いが、彼の仕事は飛び切りユニークな部類に入るだろう。

2017/07/29(土)(小吹隆文)

松岡亮「何も知らず、空で描く。」

会期:2017/07/24~2017/08/05

福住画廊[大阪府]

松岡亮はミシンを用いて刺繍ドローイングを制作するアーティストだ。個展会場には手描きのドローイングと刺繍ドローイングが並んでおり、それらを見たときには、まず手描きのほうを制作し、それらをもとにミシンワークを行なっているのだと思った。また、彼の作品には童画のような奔放さがあり、ひょっとしたら手描きの作品は彼の子供が描いているのか、とも思った。本人に尋ねるとどちらも間違いで、すべて自分の手によるものであり、下描き無しに即興で制作している。彼のミシンワークは、まるで手描きのごとく自由に糸を操るのが特徴だ。制作風景の動画を見せてもらったが、両手で布を躍らせるように動かすと、刺繍の線が四方八方に広がっていく。彼のミシン使いはきわめて独特で、その様子を見たミシンメーカーの人は驚愕し、悲鳴(ミシンが壊れる!)を上げたそうだ。道具の既成概念を覆し、新たな創造の可能性を切り拓くアーティストは格好いい。筆者は松岡に「ミシンのジミヘン」の称号を捧げたい。

2017/07/24(月)(小吹隆文)

怖い絵展

会期:2017/07/22~2017/09/18

兵庫県立美術館[兵庫県]

ドイツ文学者の中野京子が2007年に上梓したベストセラー『怖い絵』。同シリーズの第1巻発行から10周年を記念して開催された同展では、約80点ものヨーロッパ近代絵画や版画が展示された。本展の功績は「恐怖」を切り口に、絵画を「読み解く」楽しみを観客に伝えたことだ。もちろんこれまでの展覧会でも作品のそばにキャプションを添えて簡単な解説を行なってきた。しかし、美術鑑賞の大前提として、観客の自由な感性による美術鑑賞を最優先し、説明は最小限に控えるべき、という価値観があったのではないか。本展ではその大前提を覆して、作品が持つストーリーや背景を積極的に紹介していた。特に神話画、宗教画、歴史画など、日本人に縁の薄い西洋画ジャンルでは、この方法が有効だ。今後の西洋美術展の見せ方にも影響を与えるのではなかろうか。また本展を通じて知ったもうひとつの驚きは、神話画や歴史画のダイナミックな表現が、後のハリウッド映画に少なからず影響を与えていたということ。これは音楽にもいえることで、19世紀ロマン派のクラシック音楽を現代に継承しているのはハリウッド映画だ。芸術がもともと持っていた娯楽性の部分を映画に譲ったことが、20世紀の難解な前衛芸術を招いた原因のひとつなのかも。そのような推論を巡らせながら本展を見ると、さらに興味がそそられた。

2017/07/21(金)(小吹隆文)

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プレビュー:よみがえれ! シーボルトの日本博物館

会期:2017/08/10~2017/10/10

国立民族学博物館[大阪府]

江戸時代後期に来日した、オランダ商館付のドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866)。彼は禁制の地図を持ち出そうとした「シーボルト事件」で有名だが、当時の日本の自然や文化にまつわる膨大な資料を残したことでも知られている。本展はそのコレクションのうち、ミュンヘン五大陸博物館とブランデンシュタイン=ツェッペリン家(シーボルトの末裔にあたる)が所蔵する資料を通して、彼が建設を夢見ていた「日本博物館」の再現を試みるものだ。シーボルトの日本コレクションといえば、1996年に国立民族学博物館で行なわれた「シーボルト父子のみた日本」が印象深いが、同展はオランダの博物館(ライデンだったかな?)の所蔵品だったはず。約20年ぶりの大規模なシーボルト展、しかもドイツのコレクションがまとまって来日するとあって、筆者の気持ちは早くも高ぶっている。

2017/07/20(木)(小吹隆文)

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