2018年04月15日号
次回5月15日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》

[神奈川県]

クルーズで「飛鳥II」に乗船した。おかげでfoaが設計した《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》を初めて出航と入港する側から見ることができた。頭ではわかっていたつもりだったが、本当にこれは船から見ると、さらにカッコよい。海に向かって突き出す波打つような屋上のヴォリュームのほか、客船と平行する水平のラインや層構成などがはっきりとわかる。もちろん、この建築の内部や屋上を歩くだけでも刺激的な空間を味わえるが、やはり移動しつつ海から眺めることもしないと、このデザインの醍醐味を本当に体験したことにならない。となると、世界各地を移動する超大型客船の場合、橋をくぐることができないため、ここに着岸できないのはもったいない。

同様に海から見る横浜の風景も素晴らしい。みなとみらいの高層建築や赤煉瓦の倉庫はもちろん、横浜のランドマークとして親しまれているキング、クィーン、ジャックという3つの近代建築が同時に視野に入るからだ。おそらく昔はもっと目立ったはずだ。しかも晴れていると、ビルのあいだに富士山がでっかく見える。このアングルは写真で知っていたが、本当に見たのは初めてだった。また地図上で理解していた象の鼻の形も、船から見下ろすと肉眼で確認できる。飛鳥IIはさまざまな高さから周囲を観覧できる船尾のデッキをもち、眺望を得るためのデザインがすぐれている。そして朝夕の食事もいい。

ただし、飛鳥IIの空間や内装は、ロイヤル・カリビアンのクルーズ船に比べると、意外に豪華でなかった。かといって、シックでもない。超大型(乗客3~4千人+乗組員千人以上)というスケールメリットのなせる技だろうが、なるほど、ロイヤル・カリビアンの安い価格設定はよくできている。船内で幾つかの音楽をはしごしたが、水野彰子+石井希衣が面白かった。通常、ラウンジの音楽は当たり障りのない有名な曲だけで終わるが、それも一応最初に入れつつ、途中で激しいガチのピアノ・ソロ(ショパンの「革命」とか)、最後にフルートのための超絶技巧系の現代音楽を演奏し、なかなか攻めた選曲だった。

2017/12/24(日)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿+原発被災地リサーチ

[福島県]

12月16日と17日の両日、五十嵐研のゼミ合宿を兼ねて、原発事故によって避難指示の対象となった被災地のリサーチを実施した。まず最初に常磐線の木戸駅に近い、楢葉町の住宅と連結する小料理屋「結のはじまり」にてヒアリングを行なう。ここを営むのが、福島の阿部直人の建築事務所から転職した古谷かおりである。また、ならはみらいの西崎芽衣は、京都で社会学を学び、卒業してすぐにここに移住し、空き屋バンクなどの事業を動かしている。続いて、緑川英樹が手がける《木戸の交民家》を見学した。築70年ほどの古民家を再生・活用する活動で、地域コミュニティの交流や米づくりなどにも挑戦している。いずれも3.11がなければ、このエリアと関係なかった若い人が参入し、新しい街づくりにかかわっているのは頼もしい。駅の周囲は入母屋の住宅が並び、個性的な街並みの景観がある。ただ、駅前は急ごしらえの安普請のホテルがもうすぐオープンする予定だった。

川内村では、2016年にオープンした村内唯一のCafe Amazonを訪れた。これが東京ならば、なんの違和感もないが、周りにはお店らしいお店がほとんどなく、つぶれたガソリンスタンドの向かいにぽつんとカフェがある。そこで、なぜこの場所にタイのチェーン店の日本第1号店のカフェができたのか、マネージャーに話をうかがう。東日本大震災のあと、コドモエナジー社が復興支援で、川内村に工場をつくったことがきっかけらしい。また焼き肉店をリノベーションした店舗が、隈研吾風のルーバー改修だなと思ったら、やはり福島の木材利用で両者の関係があることも判明した(正確には内外装は隈事務所ではないが)。なお、ここの女性マネージャーも、タイで20年ほど暮らしてから、いきなり川内村にやってきたという。そしてカフェの存在が、タイと日本の文化交流にも貢献しているようだ。やはり、3.11が縁となって、外部から新しい風が入っているのは興味深い。

2017/12/16(土)・17(日)(五十嵐太郎)

《鈴木大拙館》

鈴木大拙館[石川県]

21世紀美術館のシンポジウムの昼休みが2時間あったので、徒歩10分ほどの《鈴木大拙館》へ行ってみる。鈴木大拙はいわずと知れた「禅」を世界中に広めた仏教哲学者で、同館の近くで生まれた縁で建てられたらしい。館の設計は谷口吉生。敷地全体に比べて、書籍や原稿、書などのコレクションを公開する展示室は小さく、「水鏡の庭」と名づけた屋外の池と、その池をながめながら思索するキューブ状の「思索空間」の比重が大きい。記念館と銘打たなかったのはそのためだろう、大拙の思想を象徴的に表わそうとした建築だ。2011年の竣工だからまだ新しく、垂直・水平の直線だけで構成されたミニマルなデザインは、ほかの目立ちたがりの建築とは比べようもないほど端正で気品にあふれている。思索空間でしばし呆ける。


《鈴木大拙館》(奥は思索空間)

2017/12/16(土)(村田真)

京都鉄道博物館

京都鉄道博物館[京都府]

日曜に京都鉄道博物館を訪れたら、従来の鉄道ファンに加え、やはり家族連れが多く、とても賑わっていた。大空間の吹抜けに数多くの懐かしい実物の車両を並べたり(食堂車で弁当を食べることも可能だった!)、大きな鉄道ジオラマがあるなど、一見、名古屋のリニア・鉄道館と似ているが、決定的に違うのは建築や場所性だろう。リニア・鉄道館が名古屋の海沿い(レゴランドの隣である)という鉄道と関係ない立地であるのに対し、京都鉄道博物館は屋上から隣接して走る東海道新幹線がよく見えたり、営業線と連結しているだけでなく(屋外で往復1kmを走るSLスチーム号に体験乗車できる)、それ自体が歴史的な価値をもつ旧二条駅舎や扇形車庫が展示に組み込まれているからだ。ゆえに、建築ファンとしてもかなり楽しめる。また企画展でも駅舎の展示が多く、鉄道の開通に合わせて建設されたホテルや昔の標準駅舎プランなどが紹介されている。

旧二条駅は博物館のルートから言うと出口にあたり、ミュージアムショップが設置されている。館の入口があまりに素っ気ないだけにこれが出口というのは少々もったいない気もするが、最初にこれが出迎えると、あまりにレトロ過ぎるのだろう。ともあれ、1904年に建設された木造駅舎であり、瓦屋根を載せた和風のデザインが目立つ。一方で、鉄筋コンクリート造の扇形車庫はいわゆる有名な建築家が手がけたものではないが、求められる機能をストレートに造形化しており、文句なしにカッコよい。現在は耐震補強のために斜めのブレスが加えられているが、まぎれもなく、モダニズムのデザインである。中央に蒸気機関車を回転させる転車台を据え、それを扇形の車庫や検修車が取り囲む。それぞれの車庫には、大きな開口やトップライトのほか、おそらく蒸気を屋外にはき出させるための煙突が屋根から突き出す。扇形車庫に蒸気機関車がずらりと並ぶ姿は壮観である。


旧二条駅舎

扇形車庫

2017/12/10(日)(五十嵐太郎)

都市活性装置としてのシティハブ重松象平氏公開レクチャ

せんだいメディアテーク 7F スタジオシアター[宮城県]

仙台で実際に市庁舎の建替えプロジェクトが動いていることから、今年の東北大の修士課程ではこれを設計課題に取り上げている。いつもとは格段にスケールが違う巨大な規模の施設であるため、前期はプレデザイン、後期は具体的なデザインというふうに分け、通年のプログラムとしたが、それでも学生たちはかなり苦労していた。そして後期は11月の中間講評に日建設計の勝矢武之氏、12月の最終講評にOMAニューヨーク代表の重松象平氏をゲストクリティックに招いた。講評の後は、せんだいメディアテークで重松氏の公開レクチャーも行なわれた。まず現在のOMAの組織がどうなっているか。OMAニューヨークはいわゆる支部というよりも、世界各地のそれぞれの事務所が、ロッテルダムのコールハースと対等の関係をもち、個別に自主的な活動をしているという。こうした組織のあり方は、かつてのMVRDVやBIGなどのように、優秀なOMAの子どもたちが独立してライバルにならないよう、引き留めておく側面もあるようだ。

重松のレクチャーは、決して早口のマシンガントークではないのに、高密度な内容だった。おそらく無駄がない効率的かつユーモアのあるプレゼンテーションだからだろう。そしてワシントンDCのXブリッジのプロジェクト、メトロポリタンミュージアムの展示デザイン、マイアミのアートフェア、facebookの社屋、ケベック国立美術館の新館、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー、福岡の天神ビジネスセンターなど、社会を観察しつつ、いまという時代を意識したOMAニューヨークのエッジが鋭いデザインが示された。学生の保守的な課題案よりも、ラディカルなリアル・プロジェクトの数々は、確かにOMAの遺伝子を継承している。そして従来は建築分野とされないことにも切り込み、新しい領野を意欲的に開拓していた。特にハーバード大学の大学院スタジオでは、食をテーマにしたリサーチを行なっており、今後の展開が興味深い。なお、質疑応答では、自らが帰国子女枠を使いながら、日本で大型のプロジェクトを進めていることのほか、現在の日本の状況に腐らず、建築の可能性を探究すべきであることが語られた。

2017/12/08(金)(五十嵐太郎)

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