2018年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

写真都市展 ―ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち―

会期:2018/02/23~2018/06/10

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

ウィリアム・クラインは「20世紀を代表する写真家」で、「写真、映画、デザイン、ファッションのジャンルを超えた表現と、ニューヨーク、ローマ、モスクワ、東京、パリなどの世界の都市を捉えた作品で、現代の視覚文化に決定的な影響を与え」たそうだが、どこがいいんだかピンと来ない。でも展覧会は評判がいいので行ってみたら、クライン以外の日本人の作品が展示構成も含めてとても刺激的だった。

たとえば安田佐智種の《Aerial》は、超高層ビルなどの高所から都市の俯瞰写真を何百枚も撮り、撮影者の足元が消失点(そこだけ白く抜けている)となるように組み合わせた放射状の風景写真。《みち(未知の地)》は、東北の被災地の家が建っていた跡を歩きながら真上から撮影し、つなぎ合わせたもので、どちらも作者の拠って立つ足元を意識させる。西野壮平も都市の断片を歩きながら何千枚も撮って組み合わせ、再構築しているが、こちらは多焦点的で時間軸も組み込んだ未来派的写真といえる。勝俣公仁彦も、同じ場所から異なる時間に長時間露光で撮影した写真を組み合わせたシリーズを発表。静止画像が積層されて時間を与えられ、都市が動いているように感じられる。

彼らは写真を、1点の固定した場所から切り取った一瞬のイメージという既成観念から解き放ち、それこそ都市生活のなかでいつも感じているような多焦点的、持続的な経験を濃密に味わせてくれた。展示方法もすばらしい。仮設壁ならぬ太い仮設柱に展示したり、台の上面に貼りつけたり、印画紙の四隅を天井から吊るして宙に浮かせたり、あえて引きのない狭い通路の両側に大作を展示したり、多彩な写真に見合った多彩な展示で見る者を飽きさせない。満足して帰ろうとしたら、窓から藤原聡志の超巨大な画像が、まるで布団でも干すように垂れ下がっているのが見えた。唐突感がすばらしい。

2018/04/11(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00043488.json s 10146295

サンフランシスコの慰安婦像とホロコーストの記憶

[アメリカ、サンフランシスコ]

大阪市が姉妹都市の解消を決定し、日本で「話題」になったサンフランシスコの慰安婦像を探した。土曜の昼に誰もいない公園の奥にひっそりと置かれ、日本を責めるというより世界の性暴力根絶を訴えるものだった。ソウルの慰安婦像はこれよみがしに日本大使館の近くに設置され、「公共造形物」に指定され(なお、周囲のビルは義務づけられ、必ずパブリック・アートが存在する)、24時間の警備と監視キャンプまで付随し、ものものしい雰囲気だったが、サンフランシスコではまるで違う。これで大阪市長が大騒ぎして、世界に宣伝するのは悪手ではないか。なお、リンカーン・パークでは唐突に悲劇のメモリアルと出会う。鉄格子の向こうに立つ一人の男と倒れた人たちを表現するジョージ・シーガルの彫刻《ホロコースト》である。シーガルがあえて見晴らしがいい場所を主張し、1984年に設置されたらしい。これも国家としてのドイツを責めるのではなく、ナチスが犯した恐ろしい罪を忘れない、の主旨である。また槇文彦が設計した《イエルハブエナ公園視覚芸術センター》では、Yishai Jusidmanによるペルシアンブルーの寂しい絵の個展を開催していたが、よく見ると、アウシュヴィッツやビルケナウなどの強制収容所を描いたものだった。

ところで、慰安婦像のある公園と道路を挟んで向かいのバンク・オブ・アメリカのビルの手前に特攻隊の生き残りである流政之の彫刻を発見した。太平洋戦争では互いに敵国だった建築とアートのコラボレーションである。彼はニューヨーク世界博覧会の日本館(1964-65)の大量の石を使ったインスタレーションの仕事を契機に、アメリカで大型のパブリック・アートを手がけるようになり、同時多発テロで倒壊した世界貿易センターの《雲の砦》なども制作した。あまり正当な評価がなされていないと思うが、いち早く海外で活躍した日本人のアーティストである。相互貫入する曲線的な彫刻は、巨大な「建築的彫刻」ゆえに、構造設計を踏まえてつくられた。そしてSOMが設計した硬質のビルに対し、彫刻がやわらかさを与え、補完的な関係を結ぶ。



サンフランシスコの慰安婦像

ジョージ・シーガル《ホロコースト》



《イエルハブエナ公園視覚芸術センター》

流政之の彫刻

2018/03/16(金)(五十嵐太郎)

《デ・ヤング美術館》《リージョン・オブ・オナー美術館》《アジア美術館》

[アメリカ、サンフランシスコ]

近代以前を展示するサンフランシスコの3つの美術館を訪れた。
ゴールデン・ゲート・パーク内の《デ・ヤング美術館》は、1894年の万博のパヴィリオンが起源であり、アメリカ美術史やアフリカなどのコレクションをもつ。企画展は、アフリカ系の現代美術やマオリ族の肖像画を開催しており、前者はアナツィなども参加していたが、国内だとアール・ブリュット的な作品が多い(それにしても展示室の天井が高い!)。かつてはエジプト様式だったが、ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計で生まれ変わった美術館は、皮膜、造形、空間、自然の挿入、塔からの眺めはどれも素晴らしく、現代的である。特に展示室がホワイト・キューブを壊すことなく、建築の空間になっていることに感心した。オセアニアやアフリカ・セクションの什器デザインも建築と連動している。訪問時はフロリストとのコラボレーションにより、展示作品へのオマージュとなるフラワーアレンジメントを、ほぼ全館に設置していた。絵や彫刻の色や形を植物によって再解釈する企画だが、生ものを美術館に持ち込むのを許可するとは大胆な試みである。

ゴールデン・ゲート・ブリッジも見えるリンカーン・パークの《リージョン・オブ・オナー美術館》は、いわゆる丘の上の古典主義建築による美の殿堂だった。ロダンの彫刻ほか、古代から近代まで西洋美術を所蔵し、コの字プランで時代順にたどる。特徴的なのは、絵画と同時代の家具、調度品を一緒に展示し、部屋ごとに過去のインテリアの展示も行なうケースもあることだ。地下の企画展「カサノバ」は、18世紀にイタリア、フランス、イギリスなど西欧各地を放浪し、脱獄もした伝説の人物をネタに、同時代のブーシェ、フラゴナール、ホガース、カナレット、ピラネージ、衣装と風俗を紹介する。ほかにも小企画の「パリ1913年」展は、ドローネーらを紹介していた。そして常設では、コミッションワークによって現代アートも介入する。ガエ・アウレンティがリノベーションを手がけ、古典主義の図書館を《アジア美術館》に再生させた空間でも(やや単純化されてはいるが、彼女が担当したバルセロナの美術館も想起させる)、充実した古美術のコレクションと現代美術の対話を組み込み、横断企画は増えている。


《デ・ヤング美術館》


《デ・ヤング美術館》


《リージョン・オブ・オナー美術館》


「カサノバ」展


《アジア美術館》


《アジア美術館》


《アジア美術館》

2018/03/16(金)(五十嵐太郎)

神宮徴古館・神宮美術館

神宮徴古館・神宮美術館[三重県]

伊勢の神宮にご参拝、ではなく見学に来ました。ここは小学生のとき修学旅行で訪れて以来だが、二見浦の夫婦岩は覚えているのに神宮の記憶はまったくない。まあガキにとって寺社ほど退屈な場所はないからな。そんなわけで、いまにいたるまで、伊勢神宮は天照大神を祀る場所で、20年にいちど社殿を建て替える式年遷宮が行われるということくらいしか知らなかった。調べてみると、伊勢には内宮と外宮の2カ所あり、しかもどちらにも社殿がいくつもあるらしい。目的地は内宮の御正宮と呼ばれるところだが、最奥部にあるので駅の近くの外宮から見ていく。土宮や風宮など計14ある別宮の隣はどこも更地になっていて、白い砂利を敷きつめた上に家型の木箱が置かれている。あ、なるほど、式年遷宮というのはよく写真で見かける御正宮だけでなく、すべての社殿で行われるのか。想像以上に大変な行事だ。

内宮からバスで外宮に向かう途中、徴古館と美術館の前で下車。小高い丘の上に建つ神宮徴古館は、赤坂迎賓館を手がけた片山東熊の設計で、明治42年の竣工というからもう100年以上たつ(ただし2階部分は戦後増築)。左右対称のルネサンス様式だが、場所に不釣り合いな威容だ。展示物件は式年遷宮で出た御装束神宝など。御装束神宝とは社殿に納められた神々の調度品の類いで、以前は式年遷宮のたびに埋めたり焼いたりして新調していたが、もったいないので(とはいってないけど)一部を保存・展示することにしたという。その奥には神宮美術館があって、式年遷宮を記念して奉納された美術品が収蔵されている。もちろんだれでも奉納できるわけではなく、文化勲章受章者や日本芸術院会員など国に認められた芸術家に限られるため、前衛芸術はない。この時期はちょうど皇居で開かれる歌会始のお題に因んだ特別展が開かれていて、今回は「語」をテーマにした作品約20点が展示されていた。

2018/03/16(村田真)

《サンフランシスコ近代美術館》《UCバークレー美術館・フィルムアーカイブ》

[アメリカ、サンフランシスコ]

サンフランシスコで現代アートを紹介する2つの美術館を訪れた。
《サンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)》は、斜めにカットした中央のシリンダーが象徴的な空間を演出するマリオ・ボッタのクラシックな空間に対し、敷地に余裕がない状況で、背後に増床した細長い部分はスノヘッタによるものであり、現代美術のために展示空間を最大化しつつ、端部の動線エリアと波打つファサードに建築的な表現を集中させている。各フロアの展示内容は多様であり、想像以上に充実していた。例えば、カリフォルニアのデザイン(イームズ夫妻や各種のプロダクトなど)、1960年代以降のドイツ美術(リヒターやアンゼルム・キーファーなど)、同館が得意とするアメリカのポップ・アートやミニマル・アート(オルデンバーグやソル・ルウィット)、巨大な画面による映像作品《Sublime Seas》、ルイーズ・ブルジョワによる大小のスパイダー群、ジム・キャンベルによる仮想の斜面インスタレーション、屋外彫刻(ロバート・インディアナやアレクサンダー・カルダーなど)、1階に挿入されたリチャード・セラなどである。特にロバート・ラウシェンバーグの企画は、彼が試みた多分野のコラボレーションの事例も紹介しており、興味深い。

一方で《UCバークレー美術館・フィルムアーカイブ》は、ディラー+スコフィディオが鋸屋根の印刷工場をリノベーションしたものである。ダニエル・リベスキンドによるサンフランシスコの《ユダヤ現代美術館》のような異物挿入型だが、鋭角的なデザインではなく、曲面的に包む銀色のボリュームが白い躯体を貫通し、内部は複層にわたって細い裂け目が走る。赤い階段室も刺激的だった。1階は鋸屋根の下にサンフラシスコのアーティスト(昔の映像系が面白い)、吹き抜けに巨大な壁画、通路にコミュニティ・アートのほか、中国・明代の絵画、地下ではチベット仏教美術、テレサ・ハッキョン・チャの文字を使うアート、西洋絵画における苦痛のイメージの企画展示を開催していた。コンパクトながら多領域をカバーしており、大学の底力を感じさせる。


《サンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)》、手前がマリオ・ボッタ設計、背後はスノヘッタによる拡張部分

左=マリオ・ボッタによる設計部分 右=スノヘッタ設計による拡張部分


ディラー+スコフィディオ《UCバークレー美術館・フィルムアーカイブ》外観


ディラー+スコフィディオ《UCバークレー美術館・フィルムアーカイブ》外観



ディラー+スコフィディオ《UCバークレー美術館・フィルムアーカイブ》内観

2018/03/12(金)(五十嵐太郎)

文字の大きさ