2018年06月15日号
次回7月2日更新予定

artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

インベカオリ★「理想の猫じゃない」

会期:2018/04/04~2018/04/10

銀座ニコンサロン[東京都]

インベカオリ★の今回の個展は、ここ数年神保町画廊ほかで開催された展覧会の出品作の集大成である。そこに展示された30点余りの作品を見て感じたのは、彼女の写真の世界が、まさに真似しようのない独擅場になってきているということだ。

黒いスーツにタイトスカートのOL風の女性が、路上でラーメンのどんぶりを抱えていたり、日本髪の女性がフルヌードで雑多なものが溢れる室内に立っていたり、赤いドレスの女性が、水を張った風呂に半ば体を沈めてクリームソーダを啜っていたりするシチュエーションは、普通にはまずありえないものだ。そんな場面を撮影すれば、大抵はシュルレアリスム的な異化効果が生じるだろう。ところが、インベの写真を見ていると、それらがまったくリアルな、「ありそうな」状況に思えてくる。なぜそうなるのかといえば、彼女がモデルたちと話しながら決めていくという場面設定が、ほぼ完璧だからに違いない。むろん最終的にシャッターを切るのはインベ自身だから、彼女のこう撮りたいという確信が、ただならぬ精度に達しているということでもある。ここ数年、彼女の占い師的な察知能力には、さらに磨きがかかってきているようだ。

結果的に「あなたはなぜあなたになったの」という問いかけの答えとして設定された場面は、不気味なほどリアルに、その人が持つ「独特な言葉や価値観」の表現として成立することになった。彼女の写真を見ていて、だんだん怖くなってくるのは、ここまで「私」が剥き出しになってしまうと、それ以上さらけ出すと危険な領域にまで達してしまうではないかということだ。とはいえ怖いもの見たさで、その先も見て見たい気もしてくる。残念だったのは、赤々舎から出る予定だった2冊目の写真集が、展覧会の会期には間に合わなかったこと。ぜひ早めに刊行してほしい。なお、本展は5月7日~16日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2018/04/05(木)(飯沢耕太郎)

あおいうに個展 公募落選展

会期:2018/04/02~2018/04/14

アートラボ・トーキョー[東京都]

心に病を抱えたいわゆる「メンヘラ」のアーティスト。作品は絵具の滴る人物画や抽象画で、ひょろひょろと線が伸びていたり余白が多かったり、わりとだれが見てもビョーキかなと思ってしまう絵だ。今回は公募展に落選した作品を出しているというので見に行った。「落選展」といえば、1863年のサロンに落選したマネやホイッスラーらが集まって開いた展覧会が有名だが、今回は複数の公募展に落選したたった1人の落選展。だいたい落選作は不名誉なことなので公開されない場合が多いが、彼女によれば、自分の作品は子供みたいなものだから暗い場所に置いておかず、日の当たる場所に出してあげたいというのが親心、というわけだ。公募展に応募したものだけに大作が多いが、小品の方がずっと魅力的に映るのは、それだけ自由に描いている証だろうか。

2018/04/05(村田真)

吉田謙吉「満洲風俗・1934年」

会期:2018/04/03~2018/05/06

JCIIフォトサロン[東京都]

今和次郎とともに「考現学」の創始者として知られる舞台美術家の吉田謙吉は、1934年8月に雑誌『経済知識』の特派員として満洲各地を旅した。大連、奉天、新京、哈爾濱、撫順と回るあいだに、吉田は目にしたものを、愛用のライカⅡ型で逐一撮影している。その一部は帰国後、「満洲国視察画報」(『経済知識』1934年10月号)という記事に掲載されるが、吉田はそれとは別に、都市ごとに密着焼き(コンタクト・プリント)を貼り込んだ写真帖を製作していた。今回のJCIIフォトサロンでの展覧会では、遺族の元に残されていた写真帖のページを切り離してスキャンし、少し大きめにプリントして展示していた。

それらを追っていくと、1920年代半ばに登場したドイツのエルンスト・ライツ社製のライカが、いかに革新的な小型カメラだったのかが見えてくる。吉田が街を歩き、何かに目を留めてシャッターを切る──その動作や呼吸がそこにいきいきと、あたかも一緒に体験しているような生々しさで伝わってくるのだ。むろん、「考現学」の調査で鍛え上げた観察力が大きく働いていることは間違いないが、それ以上に路上のスナップ撮影にのめり込んでいく彼の心の弾みが、写真の一枚一枚に宿っているようだ。

もうひとつ、このような展覧会を見ると、デジタル化がもたらした、精度の高い複写・再現の技術の可能性を強く感じる。ライカ判(24×36ミリ)の小さいコンタクト・プリントをさらに引き伸ばすと、満洲の街角の情景の細部がありありと浮かび上がってくるのだ。古写真や古い雑誌などの画像から、精細な情報を引き出してくるスキャニングや複写の技術の進化によって、新たな写真展示の形式が生まれつつあるのではないだろうか。

2018/04/04(水)(飯沢耕太郎)

Street Museum(ストリートミュージアム)

会期:2018/03/16~2018/05/27

東京ミッドタウン・プラザB1メトロアベニュー[東京都]

東京ミッドタウンが主催するアートとデザインのコンペのうち、2017年度のアートコンペ受賞作家6人による新作展。なんだか加藤泉によく似た絵があった。作者の大野光一は昨年のコンペでは、粗末な小屋をしつらえてそのなかに同じような顔の絵をびっしり展示したが、そこでは絵そのものより、小屋の小さな窓から絵をのぞくという見せ方におもしろさがあった。ところが今回はピラミッド型に並べているとはいえ、絵そのものが露出しているため「加藤泉の亜流」感が前面に出てしまっている。絵を見せたいのか、「見せ方」を見せたいのか。

それに対して、昨年はどことなくミケランジェロの《ピエタ》を思わせないでもない大きな木のかたまりを出した七搦(ななからげ)綾乃は、今回、白い台座(箱)の上に小さな茶色い物体(木彫)をボソボソッと置いた。遠くから見ると、色といい形といいサイズといい「ウンコ」を連想させ、ドキッとした。別にウンコを連想させるからよいのではなく、きれいに整備された都市空間、いかにも作品然とした作品が並ぶ会場に違和感をもたらしているからいいのだ。欲をいえば、中央と四隅の5カ所に整然と並べるのではなく、もっとランダムに配置すればより効果的だったのではないか。…と書いてしばらくして行ってみたら、なんと作品の数が増え、ランダム感が増していた。すばらしい。


[写真:2018年開催の様子]

2018/04/04(村田真)

瀬戸正人「Silent Mode 2018」

会期:2018/04/02~2018/04/08

Place M ミニギャラリー[東京都]

2月5日~11日に、Place Mのメインギャラリーとミニギャラリーの両方を使って開催された瀬戸正人の「Silent Mode 2018」展を見逃してしまっていた。だが、今回ミニギャラリーで開催されたダイジェスト展を見ることができたので、この新シリーズについて書いておきたい。

第21回木村伊兵衛写真賞受賞につながった前作の「Silent Mode」(1996)は、電車の車内の乗客を、コンパクトカメラのシャッター音を消した「サイレントモード」で、至近距離で撮影したポートレートのシリーズだった。今回の「2018」ヴァージョンは、クローズアップの正面向きのポートレートというスタイルは踏襲しながら、野外で10分ほどの長時間露光で撮影している。当然、モデルたちは「撮られている」ことを意識しているわけで、無意識の表情や身振りを引き出そうとした前作とはまったくアプローチの方向性が異なる。長時間露光によって、表情は曖昧なまま凍りつき、髪の毛は風に揺らいでブレている。そのような偶発性を組み込みつつ、よりエモーショナルな要素を強めて、人間の存在の不安定さを定着しようとした、意欲的なポートレートのシリーズと言えるだろう。

むろんまだ途中経過であり、数が増えていくとともに、シリーズ全体がどんなふうに見えてくるかは不確定だ。また、なぜ女性のみを被写体にしているのか、モノクロームでよかったのかどうかもまだわからない。だが、旧作をあらためて見直し、再構築するという営みは、瀬戸のような長いキャリアを持つ写真家にとっても、重要な意味を持つのではないかと思う。展覧会や写真集として形をとってくるのが楽しみだ。

2018/04/02(月)(飯沢耕太郎)

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