2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

森村泰昌「下町物語プロジェクト」2017-2019

会期:2017/11/03~2017/11/25

旧駒ヶ林保育所[兵庫県]

神戸の新長田界隈は、市内を代表する下町エリアであり、1995年の阪神・淡路大震災で激甚な被災を被った地域として知られている。この新長田を舞台に開催されたアートイベント「下町芸術祭」の一環として行なわれたのが、美術家、森村泰昌の「下町物語プロジェクト」である。展示は3つの要素で構成されている。一つは新長田界隈の下町を取材し、6名の住人の表現物や収集物(なぞなぞの看板、動物の張り子彫刻など)の展示であり、もう一つは元保育園の備品で森村が作った即興彫刻《積木組》と、街の音、ピアノ演奏、演説などによるサウンドインスタレーション《下町組曲》、そして最後は元保育園の滑り台式非常階段で、森村はこれを「イサム・ノグチの《ブラック・スライド・マントラ》に匹敵する」と評価した。これらのなかで筆者がもっとも気に入ったのは、《下町組曲》のひとつで、森村が架空の政党党首になって下町の魅力を語る「贋作“下町新党”党首演説」である。元保育園の屋上にスピーカーと椅子を設置し、下町のパノラマを眺めながら森村のメッセージを聞くと、不思議と熱い気持ちが込み上げてきた。このプロジェクトは来るべき東京オリンピックの前年である2019年まで続く予定。次の開催地や日時は不明だが、コンプリートを目指したい。

中村雄二郎氏(理容中村店主・中村美術館)による、動物張り子彫刻の展示風景

2017/11/04(土)(小吹隆文)

竹之内祐幸「The Fourth Wall/第四の壁」

会期:2017/11/01~2017/12/22

PGI[東京都]

竹之内祐幸の作品を見るのは、2015年の同会場での個展「CROW」以来2回目だが、着実に写真家としてのステップを進めている。作品一点一点の強度が増すとともに、緊張と弛緩とをバランスよく使い分けることができるようになってきた。
タイトルの「The Fourth Wall/第四の壁」というのは、「現実世界とフィクションである演劇内の世界を隔てる想像上の壁」のことだという。演劇の観客は「その壁を通して舞台上の世界を観ている」。これはいうまでもなく、竹之内が写真をそのような「壁」と見立てているということだろう。たしかにカメラのファインダーを通して眺めた現実世界は、舞台上の「フィクション」のように見えることがある。写真の撮影者は、いわば観客席からその「フィクション」を観ているのだ。とはいえ、ある種の演劇がそうであるように、写真家のいる観客席が必ずしも安全地帯であるとは限らない。ときにはいきなり「フィクション」であるはずの現実世界がこちら側に侵入してくることもある。竹之内の写真も、そのような微妙な均衡で成り立っているのではないだろうか。そこに写っている被写体は、一見穏やかな光に包み込まれて、気持ちよく配置されたオブジェであるように見えて、どこか危険な匂いを漂わせている。ほとんどが縦位置で、あたかも標本のように事物を画面に閉じ込めていく彼の撮影のスタイルが、その感覚をより強めているといえそうだ。
なお、展覧会に合わせてT&M Projectsから同名の写真集が刊行された。鈴木千佳子のデザインによる、小ぶりだがカッチリとよくまとまった造本が、写真の内容にふさわしいものになっている。

2017/11/02(木)(飯沢耕太郎)

アリン・ルンジャーン「モンクット」

会期:2017/10/28~2017/11/26

京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA [京都府]

アリン・ルンジャーンは1975年バンコク生まれ、2017年のドクメンタ14に参加するなど国際的に活躍する作家。繊細な映像とインスタレーションを組み合わせた複合的な作品を制作している。モノの移動や移民がもたらす地政学の書き換え、流通と消費の政治学、植民地化や異文化の接触といった近現代史の捉え直しの中に、個人的な記憶を交差させて現在と接続させるのが特徴だ。2015年の「PARASOPHIA:京都国際芸術祭」で展示した《Golden Teardrop》では、商品としての砂糖の歴史から西欧とタイの関係を再考。ヨーロッパから17世紀のタイに伝えられた砂糖菓子を、タイ在住の日本人女性がつくる様子を収めた映像に、彼女の祖父母が広島で被爆したことを語る声が重ねられる。写真など歴史資料を用いつつ、砂糖菓子の型をつくる工場労働者も登場するなど、作品は断片的で複数の語りへと開かれている。

本個展でルンジャーンは、西欧諸国が植民地支配を強めた19世紀半ば、シャム(タイの旧称)のラーマ4世が、自らの王冠を複製したレプリカを、ナポレオン3世に贈ったという史実に着目した(「モンクット」はタイ語で「王冠」を意味する)。映像の前半では、パリのギメ東洋美術館のキュレーターが、ラーマ4世とナポレオン3世それぞれの政治的な思惑と両者のズレについて語る。植民地化を回避するための友好的な外交政策として、また自らの権力を西欧に誇示しようとしたラーマ4世。一方、権力基盤の弱さを克服するため、遠い異国の主権者からの敬意を受けることで、自身の正統性や覇権を示そうとしたナポレオン3世。政治的な駆け引きの象徴となった「王冠のレプリカ」について語る声とともに、映像は、フォンテーヌブロー宮殿の豪華な室内を映し出す。ある若い男が無人の部屋をめぐり、ガラスの戸棚に陳列された「王冠のレプリカ」を見つけると、手持ちの3Dスキャナーで形状を読み取っていく。後半では、このスキャンデータを元に、「複製の複製」の王冠をタイの女性職人がつくる様子が映される。工房の様子や繊細な手作業の手元を映すカメラとともに、ラーマ4世の子孫にあたるという彼女の家系や、家業である伝統舞踊劇の仮面の制作、王冠に用いられる技法についての説明が語られる。また、彼女が制作した「レプリカをさらに複製した王冠」とともに、使用されたパーツや図面、ラーマ4世の外交使節を迎えるナポレオン3世を描いた絵画(複製画)や絵入り新聞も展示された。
ここで、ルンジャーンの手つきは両義的だ。一見するとそれは、東南アジアで唯一植民地支配を免れたシャム王国の威容を再提示する身振りにもとれる。一方で、国家の象徴たる王冠の「レプリカ」をさらに複製する、という二重の複製の手続きは、「オリジナル」から二重に隔たった距離を生み、「文化的アイデンティティの真正性」への疑義を呈する。また、「わざわざレプリカを元に複製する」という行為は、「オリジナル、本物には触れられない」という不可触領域の存在を示唆し、王室への不敬罪があるタイの政治的状況を逆説的に浮かび上がらせるだろう。そうした政治性を内包する一方で、手仕事に従事する女性へのルンジャーンの眼差しは、温かな敬意に満ちている。

2017/11/02(木)(高嶋慈)

第4回CAF賞展

会期:2017/10/31~2017/11/05

ヒルサイドフォーラム[東京都]

CAFとはゾゾタウンの前澤友作氏が会長を務める現代芸術振興財団。そのCAFが主催する、全国の学生を対象にしたアートアワードの入選作品展だ。2014年に始まり、今年で4回目。展示されているのは16人の絵画、立体、インスタレーションなど。このなかから白石正美(スカイ・ザ・バスハウス代表)、薮前知子(東京都現代美術館学芸員)、齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役)の3人の審査員が最優秀賞1人、審査員特別賞3人を選ぶのだが、そもそも入選した16人はだれが選んだの? 3人の審査員? 入選者の内訳は、大学院も含めて東京藝大6人、京都造形大3人、京都芸大2人、多摩美2人、そのほか3人と、全国の高校から専門学校までを対象としてる割にはかなり偏りがあるなあという印象。作品もグラフィティ風、ゆるキャンの小林正人風、板材を支持体に使うバスキア風の作品が目立った。ジャン・ミッシェル・バスキア好きな前澤氏の好みを忖度したのではないかと勘ぐりたくなる選択だ。
肝心の最優秀賞は木村翔馬、以下、白石正美賞は大久保紗也、薮前知子賞は小山しおり、齋藤精一賞は菅雄嗣と、いずれも絵画が受賞した。これは納得。最後の展示室には、前澤氏が今年5月に約123億円で購入し話題を呼んだバスキア作品が、クリストファー・ウールやマーク・グロッチャンらの作品とともに展示されていた。比べるのもなんだが、やっぱり学生の作品とはぜんぜん違うなあ。ところで、昨年オークションで約62億円で落札したバスキア作品はどうしたんだろう? 並べてほしかったなあ。

2017/11/01(水)(村田真)

THE ドラえもん展 TOKYO 2017

会期:2017/11/01~2018/01/08

森アーツセンターギャラリー[東京都]

1990年に東京国立近代美術館で「手塚治虫展」が開かれて以来、美術館でのマンガやアニメの展覧会は珍しくなくなった。でも本来マンガは雑誌、アニメはテレビか映画で見るものであって、美術館で鑑賞するものではない。同じく実物を持ってこれない建築も、使ってなんぼのデザインも、手に持ってながめる浮世絵も美術館で見る(見せる)ものではないと思っている。でもこの「ドラえもん展」は、原画や映像を紹介するのではなく、いま活躍中のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼して制作された作品を展示するもの。だからいわゆるマンガ展ではなく、現代美術展というべきだろう。
じつは同じ趣旨の「THEドラえもん展」は15年前にも開かれていて、それも見た覚えがある。たしか大阪のサントリーミュージアム天保山(閉館)だったような気がするので調べてみたら、サントリーミュージアムで見たのは故東谷隆司が手がけた「ガンダム展」(2005)で、「ドラえもん展」のほうは巡回先の横浜そごう美術館で見たのだった。「ドラえもん展」もサントリーミュージアムから立ち上がってるし、どちらもアーティストが参加した現代美術展なので勘違いしていた。ていうか、ぼくは世代が違うので、ガンダムだろうがドラえもんだろうがどっちでもよく、ただアーティストがサブカルチャーにどれほど影響を受けているのかを知りたくて見に行っただけなのだ。ちなみに前回展で強烈に覚えているのは、レンブラントの自画像とドラえもんを強引につなげた福田美蘭の作品。今回はこれと対になるように水墨画とドラえもんを結びつけた新作を描き、うれしいことに旧作と並べている。美術史への愛と冒涜をドラえもんを介して表現した2点。ほかに奈良美智、蜷川実花、村上隆、森村泰昌が前回に続いて2度目の出品となる。
初出品では、自主規制でしずかちゃんを描いた(いや描かなかった)会田誠、ドラえもんの彫刻をつくって表面にプロジェクションマッピングした西尾康之(このふたりは「ガンダム展」にも強烈な作品を出していた)、もっと下の世代では、走る鉄道模型で一瞬ドラえもんらしき影を映し出すクワクボリョウタ、巨大化したしずかちゃんを超リアルに描いた坂本友由、ひみつ道具をいかにもそれっぽく立体的に再現した伊藤航と、それを水墨画でリアルに描写した山口英紀のコラボレーション、黒板にチョークで「のび太の新魔界大冒険」の1シーンを描いたれなれななど、予想以上に力作がそろっている。前回はグラフィックや映像が多くてガキンチョが喜んでいたが、今回は絵画を中心にアート系が大半を占め、しかも技巧的に確かな作品が目立つ。これは同展を監修した山下裕二氏の力によるところが大きいだろう。ドラえもん世代でなくても十分に楽しめる展覧会になっている。

2017/10/31(火)(村田真)

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